2024年4月25日(木)

ベストセラーで読むアメリカ

2016年12月27日

 もちろん、グリシャムの作品はあくまでもフィクションであり、物語は架空のものだ。かといって、まったくのでたらめを書いてもストーリーは盛り上がらない。カジノとマフィア、そして司法との癒着という舞台装置は、ある程度のリアリティを持って読者から受け入れられているようだ。アメリカでもやはりカジノ産業に対しては、さまざまな見方があるのだろう。アメリカでも、カジノは経済成長に貢献するという単純な理屈だけでは割り切れないのだろう。

州政府によって姿勢が大きく異なる、死刑執行

 残念ながら、ミステリー小説である以上、いわゆるネタバレとなるようなことを、この場で書くわけにはいかない。しかし、最後は正義が勝つ、ということは容易に察しがつくと思うので、書いても許されるだろう。勧善懲悪の要素こそ、多くの読者を獲得するポイントでもある。当然、読者もそれを期待して読み続けるわけだ。

 ここでは、ストーリーには直接関係ない部分から1箇所だけ、目を引いた部分を次に引用したい。娯楽小説とはいえ、社会的な背景を描く部分には、ハッとさせられる部分があるのだ。アメリカにおける死刑囚の数に関する記述がそれだ。日本では死刑囚の人数が100人超であることを念頭に読むと、日米の比較ができ興味深いと思う。

 Only California had more men on death row than Florida. Texas was a close third, but since it was more focused on keeping its numbers down its population was around 330, give or take. California, with little interest in executing people, had 650. Florida longed to be another Texas, but its appellate courts kept getting in the way.

 「フロリダ州よりも多くの死刑囚を抱えるのはカリフォルニア州だけだ。テキサス州が僅差でフロリダに続き3位だ。しかし、テキサス州は死刑囚の数を減らすことに力を入れており、およそ330人だ。カリフォルニアは死刑を執行することに後ろ向きで、死刑囚は650人にのぼる。フロリダはテキサスを見習おうとしてきたが、いつも控訴裁判所が邪魔をしてきた」

 アメリカではどうやら、州政府によって死刑執行に対する姿勢に大きな違いがあるようだ。死刑囚を収容する刑務所の運営コストなどを考えて、死刑執行を積極的に行う州がある一方で、控訴裁判所が再審などの形で介入し、死刑執行を実施しにくくしている州もあるようだ。世界の先進国では死刑制度を持たない国が多いと聞く。本書のストーリー展開には関係ない記述だが、いろいろ考えさせられる。


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