2024年4月26日(金)

幕末の若きサムライが見た中国

2017年1月7日

 この一件をキッカケにしてか、一行は清国人の気概なき振る舞いに注意を払うようになる。
たとえば納富は訪問先の道台の役所での体験を「清人ヲ見ルニ、凡ソ柔弱ナル躰ナリ」「ソノ情躰甚ダ賤シ。又禮儀ヲ知ラズ」と記している。

廊下に並ぶ便器

 納富が目にした風景を現代風に要約すると、上司が日本からの賓客を接待している厳粛であるべき場面を、下っ端役人が衝立の裏から鈴なりになって覗いている。汚い手で裃を撫で、武士の魂である刀を触りまくり、抜いてみようとさえする。役所の庭に着古した衣服が干され、廊下に便器が並び、掃除された様子がみられない。一行が辞去しようとすると、テーブルに並べられた料理を奪い取り、酒の残りがあれば飲み干す始末。

 綱紀弛緩の極であり「實ニ犬猫ニ異ナラズ」。加えるに道台防備の武器はナマクラばかり。警護兵の姿は「殆ンド狐狸ノ行裝ノゴトシト。官府ノ困窮コレヲ以テ知ルベキナリ」。かくて関心は、兵士から一般人の生活へと移る。

  
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