海野素央の Love Trumps Hate

2017年1月17日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

ノスタルジアをおぼえるトランプ信者

 このユダヤ系の親子と会話をしていると、「第45代米大統領トランプ」と印刷された白い野球帽を被った中高年の白人男性が子供を連れてエスカレーターを上がっていくのが目に入ったのです。筆者は会話を切り上げて、この男性を追いかけました。彼はトランプタワー2階にあるカフェで子供とお茶をするところでした。

トランプ信者と筆者(@ニューヨークトランプタワー)

 「あなたはトランプ支持者ですよね。どちらの州からいらしたのですか」

 質問を投げかけると、笑顔を見せながら答えてくれました。

 「マサチューセッツ州からです。ニューヨークでこの帽子を被るのは勇気が要ります」

 そう語った後、彼は突然「自由」について語り始めたのです。

 「私は60歳です。今は規制が多く自由がありません。私の時代には自由がもっとありました。私はその頃に戻りたいのです」

 トランプ氏に投票をしたこの白人男性にとって、同氏の「米国を再び偉大な国に取り戻す」は「米国を再び自由が存在していた時代に取り戻す」という意味でした。2010年米中間選挙において反オバマ色の強い市民団体「ティーパーティー」の活動家は、オバマ大統領の医療保険制度改革(通称オバマケア)によって個人の自由が奪われたと強い危機感を抱いていました。医療保険に加入するか否かは、個人の自由であると訴えていたのです。この白人男性も自由に価値を置き、それがあった時代にノスタルジアをおぼえているのです。選挙でトランプ氏は彼の心理を見事に突きました。

 「私がトランプに投票をした理由は2つあります。一つは、彼は決して嘘をつきません」

 彼はこう断言したのです。

 「2つ目は、トランプは政治家ではありません。ワシントンの政治家は腐敗しています」

 さらに、彼はトランプ氏の保護主義的な通商政策を全面的に支持していました。

 「輸入品に関税をかける必要があります。私は反日、反中ではありません。米国の製品を守るためです」

 筆者がトランプ氏の女性蔑視発言に関して意見を求めると、彼は息子の耳に入らないように声のトーンを下げて次のように語ったのです。

 「男性は女性を追いかけるものです」

 もう一人、南部バージニア州からトランプタワーを訪れていた中高年の白人男性を紹介しましょう。彼はトランプについてこう強調しました。

 「彼は本当にすばらしい」

 トランプタワー詣でをするトランプ信者には類似点が存在していました。第1に、彼らは「隠れトランプ」ではありませんでした。躊躇なくトランプ氏に投票したと語るのです。第2に、トランプ氏の女性蔑視発言に対する批判など意に介する様子もありませんでした。第3に、トランプ氏の性格に魅かれていました。

 最新の米ギャラップ社の世論調査(2017年1月4-8日実施)では、51%がトランプ新政権を評価していません。しかし、トランプタワー詣でが続く限り、同氏を大統領にしたあの熱狂的な支持者は離れていないということを意味しているのです。

  
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