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2017年1月24日

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木村正人 (きむら・まさと)

ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

 プーチンが一方的に緊張を高める理由の一つは、原油価格の急落で国内経済が悪くなり国民の目を外に向けさせる必要があるからだろう。

 オレカス国防相は「わが国も18年には国防支出をNATO目標であるGDP(国内総生産)の2%まで増やす。トランプ次期大統領にはこれまで通り欧州の安全保障に対する責任を果たしてもらいたい。プーチンがどんな手を打ってくるか分からないが、1センチたりともわが領土には入らせない。NATOや米国との協力を強化したい」と筆者に語気を強めた。

飛び地に配置した75発の核兵器

 ソ連崩壊後、NATOは東方拡大を続け、民主化したロシアが加盟国になると信じ込んでいた。ロシアとの信頼構築のため、バルト三国や旧ソ連圏のポーランドにはNATOの緊急事態対処計画を策定せず、常駐部隊も置いてこなかった。

 ロンドンにある国際戦略研究所(IISS)が世界の軍事力を分析した「ミリタリー・バランス2016」によると、バルト三国ではラトビアが主力戦車3両を保有しているが、戦闘機は全体でもゼロ。

 欧州主要国は90年からの25年間に軍事力を大幅に減らしてきた。西ドイツ(現ドイツ)は215大隊から34大隊に、イタリアは135大隊から44大隊に、フランスは106大隊から43大隊に、英国は94大隊から50大隊に縮小している。

 トランプは選挙期間中、「NATOの欧州加盟国は米国に比べ応分の負担をしていない」と痛烈に批判したが、これは紛れもない事実なのだ。

 NATOの2%目標を達成しているのは加盟28カ国中、米国3・62%、ギリシャ2・46%、ポーランド2・18%、エストニア2・04%、英国2・07%の5カ国だけ。フランス1・8%、ドイツ1・18%、イタリア0・95%と非常にお寒い状況だ。

 これに対してプーチン率いるロシアは11年のGDP比3・05%から年々増やしている。15年には5%を国防支出に充て、急ピッチで軍や装備の最新鋭化に取り組んでいる。欧州問題に詳しい英大学キングス・カレッジ・ロンドンのマイヤー教授は筆者にこう打ち明ける。

 「少し誇張して言えば、ここ1~2年はロシアの思い通りになる危険性がある。通常兵力の差はそれほど大きいということだ。欧州は財政が苦しく、国防支出をロシアのようには増やせない。英国のEU離脱決定で反グローバリズムという不幸せ感が広がり、欧州は弱体化している。簡単な時期ではない」

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