韓国の「読み方」

2017年1月24日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

洗脳は小学校2年生から始まる

 北朝鮮の国民は小学校2年生で朝鮮少年団に入る。映画では、金正日の誕生日である2月16日に行われた入団式にジンミが参加した姿が描かれている。北朝鮮ではこの日以降、死ぬまで何らかの組織に所属することが義務付けられており、組織を通じて生活全般を統制される。国民を洗脳していく仕組みだ。

 満14歳で加入する金日成・金正日主義青年同盟の盟員証を受け取る時には、自分の肉体的生命より大切な社会政治的生命を象徴するのが盟員証だと教育される。この教えは社会政治的生命体論と呼ばれ、金正恩を頂点とする北朝鮮の体制=国体に心身をささげることによって永遠の生命を授かるという考え方である。

 現在の私たちには恐ろしく感じられる概念だが、笑ってばかりはいられない。この概念には、戦前日本の「国体論」の影響を指摘する議論もあるからである。金日成時代の思想体系を理論化した黄長燁(後に韓国へ亡命)は、朝鮮半島が日本の植民地だった1923年に生まれ、日本の中央大学法学部で学んだ経験を持っている。だから、戦前日本の思想を参考にしていても不思議はないのだ。

 北朝鮮に暮らす人々の日常などについては、今月発売の拙著『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応大准教授との共著)に詳しく書いた。関心のある方は、手に取っていただければ幸いである。

好きなことは「分かりません」

 印象的なシーンは、演出から外れた場所にある。

 ある時、撮影チームの一員としてロシアから平壌入りした朝鮮系の女性スタッフがジンミに語りかけることができた。スタッフは朝鮮語でジンミに「少年団に入ったけど、自分の日常について何を期待しているの?」と問いかけた。

 ジンミは1、2秒だが答えにつまって目を泳がせてから、「少年団員になったら組織生活をします」と語り、また数秒の間を置いてから「組織生活をすると過ちにも気付き、敬愛する(金正恩)大元帥様に対してどのようにしていけばいいのかも分かるようになります」と続けた。話しているうちに目に涙がたまり、言葉も途中で止まるようになった。

 そして、黙りこくって顔を下に向けた。目からあふれる涙を黙ってぬぐい、懸命にこらえようとした。女性スタッフが「泣かないで。代わりに、何か好きなことを考えて」と声をかけると、ジンミは不思議そうな表情で顔を上げる。スタッフが繰り返した「好きなこと」という言葉に返ってきた答えは「分かりません」だった。

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