世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年2月10日

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 メイ英首相は1月17日、ランカスターハウスでBrexitについての演説をしました。エコノミスト誌(電子版)は、メイは「ハード」なBrexitを選択したが、交渉は甚だ厄介であるし、コストも大きいであろうと強い懸念を表明する解説記事を書いています。要旨、次の通り。

(iStock)

 メイのパラドックスとでもいうべきことがある。就任以来、メイはビジネス界からBrexitの目標を明確にするよう求められてきた。しかし、それを試みる度に、ポンドが売られた。何故なら彼女は単一市場と関税同盟から離脱する「ハード」(あるいは「クリーン」)なBrexitに傾いていることを示したからである。ところが、17日の演説を受けてポンドは上昇した。それは前日にメイが「ハード」なBrexit を決断したと喧伝されて下げたことが主たる要因であるが、メイが自由主義的で開放的な「A Global Britain」という夢と離脱後のEUとの友好関係に対する希望を語ったことをマーケットが好感したということもある。

 離脱後はEUの保護主義的要素を脱ぎ捨て、その経済を世界に開放するという自由主義的なビジョンがある。そのビジョンは低い税金、けち臭い規制の排除、自由な貿易を指向する。それは国民投票に向けたキャンペーンで「強化されたシンガポール」として語られたものである。

 しかし、本当のところ、メイはこのビジョンを追求していない。メイは移民のコントロールを優先事項としているが、サービス産業もハイテク産業も自由な人の往来に依存している。欧州司法裁判所やその他の外国の審判の管轄権を逃れることへの固執にも同様の問題がある。自由な貿易には中立的な審判を必要とするが、セクター別のアプローチは巧く行かないであろう。EUが特定の産業に有利なアクセスを提供することはないであろうし、またWTOがその種の取り扱いを認めていない。

 メイは単一市場にとどまることと国境管理を取り戻すことのトレードオフについて正直に語った。単一市場にとどまるのではEUを離脱することにならないとも述べた。しかし、Brexitのコストについては正直さに欠けるところがあるし、「ハード」なBrexitはそのコストを大きくする。

 自由貿易協定の交渉はメイがいうよりもっと困難で時間を要する。メイはEUとの包括的な協定を2年で完了したいというが、経験によればそうは行かない。EUは貿易関係を話し合う前に離脱の問題を片付ける必要があるといっている。米国との早期の協定への期待が高まっているが、多数の非EU諸国との交渉は簡単ではない。EUとの交渉が纏まったとしても、その批准プロセスはEU加盟国の議会(国によっては地方議会を含む)の承認を必要とする。

 3月に条約50条を発動するまでメイは交渉を巡る情勢を知り得ない。それから極めて窮屈な2年しかない。メイは移行過程の必要性を認めたが、それは最終合意の実施過程というに過ぎない。27ヶ国は結束している。彼等はメイの方針が明確になったことを歓迎するかも知れないが、彼等にとってはEUの保全が最優先である。英国がEUの外にあって内にあるよりも良好な取り引きをし得ることはないと彼等はいっている。

 トランプとは違い、メイはEUが崩壊することは望まないと述べたが、一方で脅かしもした。もしEUが懲罰的な解決を迫るならそれは「悲惨な自傷行為」だと呼んだ。英国は減税をして報復することが出来るといった。彼女は、キャメロンが不満足な加盟条件を呑むのではなく交渉の席を立つことをしなかったことは間違いだったと思っている。演説でメイは「悪い取り引きなら取り引きがない方がましだ」と述べた。

 これは危険な途である。取り引きがないということは、WTOに立ち戻り、単一市場へのアクセスを失うだけでなく、自動車、医薬品、加工食品など多くが関税の対象となる。メイは「ハード」なBrexitのビジョンを力強く語った。しかし、交渉で要求する側に立つのは英国であって27ヶ国ではない。そのことが良好な結果を勝ち取ることをあらゆる意味で困難とする。

出典:‘Doing Brexit the hard way’(Economist, January 18, 2017)
http://www.economist.com/news/britain/21714960-theresa-may-opts-clean-break-europe-negotiations-will-still-be-tricky-doing-brexit

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