2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年2月17日

 中国とカンボジアの緊密な関係が、如何に両国の利益となっているかを包括的に解説し、両国関係を知るうえで有用な記事です。

 記事は、中国にとってのカンボジアとの緊密な関係のメリットの一つはASEAN内に代理人を確保できることであると言っています。カンボジアは、中国の南シナ海での行動についてASEANが非難声明を出すのを阻止しました。

中国がASEAN内でカンボジアという代理人を確保

 これを可能にしているのは、ASEANの意思決定方式についてのコンセンサスの原則です。2008年12月に発効したASEAN憲章には、基本原則として、ASEANにおける意思決定は、協議とコンセンサスに基づく、コンセンサスが得られない場合は、首脳会議が決定方式を定めることができる、と記されています。これはASEANのすべての加盟国が拒否権を持っていることを意味します。コンセンサスの原則はASEANの分裂を避け、遅々としてではありますがASEANを一体として前進させる利点を持つ一方で、重要な政策決定がなかなか行われない欠点があります。ASEAN内には、ベトナムのようにこの原則の見直しを言う国もありますが、原則は依然として堅持されています。中国がASEAN内でカンボジアという代理人を確保できるのは、この原則のためです。

 しかしASEANの結束が妨げられているのは、コンセンサスの原則のためだけではありません。フィリピンが、ドゥテルテ大統領の下、米国離れ、親中の姿勢を見せています。ベトナムも最近領有権問題で、中国と二国間解決を図ると約束しました。ドゥテルテ大統領が米国を批判したきっかけは、米国がドゥテルテの麻薬取締の方法が人権を無視していると非難したことと言われています。米国にはフィリピンの戦略的重要性を十分考慮しなかった嫌いがあります。

 ベトナムについても、米国がアジアへの軸足移動は本気であると説得していれば、領有権問題について中国の主張を受け入れなかった可能性があります。

 中国に対するASEANの姿勢が揺らいでいる一因は、東アジアで中国に対する米国の外交が毅然としていなかったことにあるのではないかと考えられます。トランプ新政権が東アジアに関与する政策を明確に打ち出さない場合には、ASEANの漂流は続くでしょう。

  
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