2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年5月6日

 特に福建省事件の元医師の男(=死刑執行=)について『博客天下』は、「42歳、蝸居(狭い家)、失恋、失業。そして彼は社会報復者に変わった」と伝える。

 中国社会科学院の社会問題研究者・于建嶸教授は中国誌『南風窓』で、「大阪教育大付属池田小事件や秋葉原通り魔事件」にも触れながら解説する。

 「彼のうっ憤晴らしの目標は、彼を邪魔する者でもなく、公権力でもなく、(彼よりも)さらに弱い者たちだ。反抗する力のない小学生であり、彼は絶望した『失敗者』として罪のない人たちを惨殺したが、社会報復が自己実現の手段に変わった」

大国「中国」の内部は歪んだ社会矛盾が蔓延

 絶望した失敗者は深刻化する不公平社会の中で、「仇富」(金持ちを恨む)感情を高めている。「『官』と『民』、『富』と『貧』の分裂がさらに深くなれば、『我々――彼ら』の間の対立を生み、社会はさらに危険な方向に向かうだろう」。于建嶸はこう続けた。

 「万博を開いている場合か。われわれは自らの事をきちんとこなすべきだ。現在最も重要なのはいかにして子供の安全を守るかだ。子供がいなければ中国に未来はない」

 万博を直前に控えて社会に動揺を与えたくない共産党政府は襲撃事件を大きく報道しないが、共産党機関紙・人民日報ウェブ版の「強国論壇」にはこうした書き込みが相次ぐ。

 万博だけを見れば、「屈辱の近代史」を乗り越えつつある中国国民は、日本人が失いかけている「国家の強さ」を実感しているが、地方に目を向ければ、歪んだ社会矛盾がまん延している。中国の「影」は今なお、重くのしかかっているのだ。

※次回の更新は、5月12日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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