海野素央の Love Trumps Hate

2017年2月10日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

真の「ウィンウィン(勝者・勝者)」になるのか

 コンフリクト(衝突・対立)に対する対処法のスタイルの専門家であるケネス・トーマスのモデルによれば、コンフリクト(衝突・対立)が生じた時ないしその可能性がある場合、人は「回避」「調和」「競争」「妥協」及び「協働」の5つの対処法を取る傾向があります(図表)。このモデルを借りて日米首脳会談を説明してみます。

 トランプ大統領は、日本に対して在日米軍駐留経費の増額、対日貿易赤字の是正及び円安誘導を取りあげてきました。これらの諸問題から生じる可能性がある日米間のコンフリクトを回避するために、安倍首相は日米首脳会談に向けて日本の官民による10年で1500億ドルの投資、米国の高速鉄道事業に対する技術提供及びシェールガスの輸入拡大といった「お土産」を用意したと言われています。コンフリクト対処法のモデルを借りれば、この対処法は自分(日本側)の関心を犠牲にして、相手(トランプ大統領)の関心を満足させることに焦点を当てた「調和」に分類されます。その背景には、「相手との長期的な関係構築のために一時的な犠牲を払うのも止むを得ない」という考え方があります。

 「調和」は長期的にみれば「ウィンウィン」に成り得るのですが、短期志向で結果主義が強い米国人の捉え方は「ルーズウィン(敗者・勝者)」の対処法になります。率直に言ってしまえば、日本側が敗者で、トランプ大統領が勝者です。

 ビジネスマンであったトランプ大統領は、コンフリクトに対して「競争」という対処法をとります。相手の関心や利益を犠牲にしても、自分のそれを満たす「ウィンルーズ(勝者・敗者)」の対処法です。「競争」の対処法を好む交渉者は、相手を支配し自分の意思を押しつける傾向があります。同大統領の場合、相手から批判を受けると、攻撃的な対決姿勢に出る自己愛的な性格が影響を与えているのかもしれません。そもそもトランプ大統領には、「ウィンウィン」という発想は薄く、「ウィンルーズ」の思考が支配しているのです。

 では、「ウィンウィン」はどの対処法に属するのでしょうか。「協働」です。双方の利益や関心を満足させ、協働を通じて融合的解決を図る対処法です。今回の日米首脳会談に応用しますと、トランプ大統領と協働しながら諸問題に対して互いに利点のある解決策を見出すというプロセス(過程)が「ウィンウィン」に導いていくのです。一方的で過度な「お土産」は、そのプロセスの阻害要因となってしまうのです。

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