世界の記述

2017年2月17日

»著者プロフィール
閉じる

宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 検死作業の前進技術「低侵襲検死」(英語略、MIA)なるものが、欧米で注目されている。従来のものより安価なことから、「格安検死」とも囁かれている。

 スペイン・バルセロナにあるISグローバル研究所が2013年9月、英医学雑誌『ランセット』で、その技術を発表。昨年11月には、その研究結果が各国メディアで報じられ、さらなる反響を呼んでいる。

 検死とは、医師が死因を臨床的に究明する仕事で、通常は、死体の胴体や頭部を切除し、臓器や脳を観察することにより死因の推測が行われる。これに対し、格安検死は、死体の病変部位を組織採取するバイオプシー(生体組織診断)のみの低侵襲で、医師の大掛かりな作業と時間を必要としないのが特徴である。

格安検死で途上国の感染症対策が進む(写真・QUIQUE BASSAT)

 ISグローバル研究所のチームリーダーで、病理学者のジャウマ・オルディ氏(58)は、この飛躍的な技術の使い道について、本誌に次のような説明をした。

 「これまでは、高度な医学実習や技術を持つ病理学者が、解剖室の中で、死体を2時間ほどかけて検死してきた。しかしMIAは、そのような専門家を必要としないため、価格がグンと下がる。主にアフリカなど、病理学者や検死施設が足りない発展途上国での活動を目的としている」

 オルディ氏は、アフリカのような国々では、「3人のうち2人は、何の病気で死亡したのか分からないのが現状だ」と明かした。

 MIAの開発により、マラリア、結核、エイズといった死因の統計が明確になり、発展途上国での感染症対策がより具体化されるのだという。

 同研究所が昨年11月17日に公表した報告書がある。アフリカ南東部のモザンビークで、成人の死者112人に対して行われたMIAでは、76%の確率で死因を解明。感染症の的中率に絞れば、85%という高い数字を引き出した。

 多くの発展途上国では、検死が聞き込み調査によって推測されることもあり、30~50%の誤診も稀ではないという、米科学雑誌『プロスワン』の調査結果もある。

 モザンビークのマニサ保健研究所のカティア・ムングアンベ氏は、「死因の研究に新風を吹き込んだ」と明言、「適切で効率的な保健対策と戦略を企てることができるようになった」と語った。 

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団とスペイン保健省の共同支援で、研究と活動は今後も継続していく予定だ。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2017年2月号より

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る