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2017年2月16日

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タラ・マケルビー 米フロリダ州パームビーチ

安倍晋三首相が米フロリダ州で行ったゴルフ外交は、各国指導者がトランプ政権に対して取るべき道筋を示している。我慢を戦略的に重ねて成果を手にするのだ(ただし、バンカー入りの可能性も常にあることをお忘れなく)。

日本の安倍首相とドナルド・トランプ米大統領は11日、フロリダ州のリゾート施設「マール・ア・ラーゴ」で記者会見を行った。

安倍首相は日本語で、弾道ミサイルを発射した北朝鮮を非難した。首相は、大統領所有の会員制クラブにある大宴会場に立っていた。このために即席で会見室として用意された部屋には日米国旗が2組飾られ、近くの結婚披露宴会場から聞こえてくるダンス音楽がかすかに流れていた。

外交の世界では、日本人は細い気配りや控えめな態度、そして多くを表に出さないことで知られている。

一方でこの記者会見と首脳会談は、いつもと違っていた。メリーランド州のいなかにあるキャンプ・デービッドや、オバマ前大統領が世界の首脳陣を迎えたカリフォルニア州サニーランドではなく、トランプ大統領は安倍首相をフロリダにある自分のプライベート・クラブに招いたのだ。

クラブの他の会員から丸見えの状態で、2人は敷地内を歩きまわった。この時リゾートに来ていた多くは結婚披露宴の出席者だった。白いナプキンが地面に散らかり、来場者がパティオをふらぶら歩いていた。披露宴を後にする人たち用のトロリーバス(エアコンと木のベンチ付き)が、何台も駐車場で待機していた。

安倍首相はきっと、これはいったい何事だと思ったに違いない。

トランプ大統領も、居心地が悪そうだった。少なくとも、外交の話をしていた時は。記者会見でトランプ氏は、、「アメリカは素晴らしい同盟相手の日本を100%支援する」と、切り口上で言った。

国際安全保障や地政学の話題について、安倍首相は明らかにトランプ大統領よりも肩の力が抜けていた。首相は落ち着いて振る舞い、トランプ大統領は脇役に回っていた。こうして安倍氏は、トランプ氏に外交のお手本を示したのだ。

トランプ氏は実業家出身で、その経歴は過去のどの米国大統領とも異なる。そして国際問題へのこれまでの取り組みも、異例ずくめだ。

トランプ大統領は、日本やその他の国が米国をだまそうとしていると責め立て、世界の舞台で好戦的な態度を取って来た。トランプ氏の世界観を理解し、関係を構築することは、各国首脳陣にとって課題だ。

安倍首相はこの課題にうまく対応したようだ——今のところは。

出だしは大変だった。安倍首相は、トランプ大統領に貿易協定、つまり環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱してもらいたくなかったからだ。少なくとも今すぐには。しかしトランプ大統領は、安倍首相のそんな思いを押しつぶした。

しかし安倍氏は、その先へと進んだ。日米の友好関係を確保するためだ。日本は、米国にとって最重要と言っていいほどの同盟国で、両国の関係は米国のアジア政策の主要部分をなす。首相は、自分をはじめとする日本政府関係者が今後もアジア地域の安全保障を維持できるよう、米国の継続的支援を確保したかったのだ。

当時のトランプ氏は、日本人が米国と不正に競争するため金融市場に影響を与えようとしていると発言していた。「日本人が金融市場で取引している間に、我々米国人はまるで、のろまの集団みたいにただ座っているだけだ」と。

この言い分にエコノミストたちは困惑した。ハーバード大学のエコノミスト、ケネス・ロゴフ教授は、トランプ大統領の日本人非難には何の根拠もなく、「単なる思いつきだ」と私に話した。さらに、トランプ氏は日本や市場について、ぼんやりとしか理解していないとも。

「彼をどれだけ教育できるのかが、今後のポイントなんだろう」とロゴフ氏は言った。

これが、安倍首相の週末の任務だった。トランプ大統領を怒らせずに教育することだ。「目標は完全に達成できたと思う」と、金融が専門の伊藤隆敏コロンビア大教授は話した。「安倍氏とトランプ氏は良い友達になり、相性も良かった」。

オバマ政権時の官僚でさえ(少なくともその一部は)、感心していた。マーク・リッパート前駐韓米国大使は「早期の首脳会談実施は、双方にとって良いことだった」と話した。

リッパート前大使は、安倍氏とトランプ氏がフロリダで共に週末を過ごしたことは、日米同盟の重要性を強調する効果があったと評価した。

トランプ新政権との付き合い方を見定めようと模索する各国指導者や外交官にとって、安倍首相は手本を作ったのかもしれない。ジョージ・W・ブッシュ元大統領の下、国家安全保障会議(NSC)で働いたエリック・オルトバック氏は、「ある意味で安倍氏は、米国の同盟国はトランプにどう対処すればいいかという雛形を作り出しているのかもしれない」と話した。

時にきっぱりとした態度を取りつつ、敬意を示しながらトランプ大統領と慎重に関係を築いて行く。これがこれまでの、安倍氏の秘訣だ。それでも、この戦略は裏目に出る可能性があると伊藤教授は指摘する。

「個人同士の人間関係と同じだ。リスクを負う必要があるが、それは慎重に計算したリスクだ」

他の人たちはもっと悲観的だ。

「私だったら警戒する」。オバマ政権下で国務省に勤務したジェレミー・シャピロ氏はこう言う。これまでトランプ大統領と良い関係を築こうとした他の外国首脳は、痛い目に遭ってきたのだからと。

英国のテリーザ・メイ首相は先月、トランプ大統領と記者会見を開いた。しかしその後ほどなくして、大統領は入国禁止令に署名。英国人は激怒し、メイ首相は恥をかいた。メイ氏は、国内の騒ぎに対応しつつ、大統領との良好な関係を維持するのに苦労した。

トランプ大統領と安倍首相は10日夜、「マール・ア・ラーゴ」で会食した(米政府筋によると、宿泊費無料の招待だった)。

外の芝生の上でがヤシの木が揺れていた。まるでペンキでも塗ったかのような、鮮やかな緑色の芝だ。白い縁取りの黒いワンピースを着たメイドたちがプールの脇を通り過ぎ、客室には赤いバラが溢れていた(駐車場には「花用」に確保されたスペースまである)。

両首脳の振る舞いは対照的で、2人の関係構築も大変そうだと、それは夕食の様子を見ていれば目にも明らかだった。

トランプ氏は食事の途中、向かいに座っていた友達(アメフト・チームのオーナーだ)を呼ぼうと、席から立ち上がった。

安倍首相は、静かに座っていた。手を前で組んだまま。

幸いにも、2人にはゴルフ好きという共通点がある。2人は翌日、トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブでプレイした。高速道路の3車線を占領する一大車列での移動だった。

その夜、トランプ大統領は私や他の記者に、2人が出かけた時の話をした。ゴルフはどうだったか私が尋ねると、「お互いについて、とても良く知ることができた」と大統領は答えた。

それから間もなくし、私たちは記者会見に呼ばれた。そして、安倍首相がよどみなく国家首脳らしく振舞うのを目にした。

トランプ大統領は記者会見中、柄にもなく静かだった。オルトバック氏に言わせると、北朝鮮に関する「十分な情報説明」を受けていない様子だった。

その後、スティーブ・バノン首席戦略官と側近が部屋に入って来た。側近は、ロイター通信が撮影した写真で見られる通り、「POTUS(米国大統領)所見」という表題が付いた書類を手にしていた。

どうやらトランプ大統領の演説原稿は、北朝鮮の行為を「挑発的」と表現していたが、大統領は違う言葉を選んだ。そして、話は安倍首相にほとんど任せていた。

米国大統領として、これは異例なことだ。そしてもうひとつ、いつもと違ったことがある。外国のミサイル発射実験の後には、民主党・共和党いずれの大統領も必ず公式声明を発表してきたが、ホワイトハウスの声明は今回なかった。

ホワイトハウスの側近は私に、必要な対応は記者会見で済ませたし、声明の必要はないと判断したのだと説明した。

「異例だ」とオルトバック氏は言う。「通常はミサイル試験について、大統領は詳細な声明を出すものだ」。

しかし通常は、大統領は国際関係について経験があり、国家運営の知見に長けた側近たちに囲まれているものだ。トランプ大統領の場合、「まだ学習中だ」とオルトバック氏は言った。

安倍氏と良い関係を築き、米国にとって重要な同盟国・日本との間に新しく親しい関係を築いたおかげで、トランプ大統領は「普通の大統領」になりつつあるという印象を与える、とシャピロ氏は言う。

しかしトランプ氏は、安倍氏をはじめ各国指導者とのやり取りにおいて、今後もおそらく、予測不能な道を進むのだろう。こう言うシャピロ氏は、「チャンネルはそのまま」がトランプ政権にふさわしい座右の銘だろうと付け加えた。

(英語記事 Japan PM Shinzo Abe's diplomatic hole in one with Trump

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-38989040

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