安保激変

2017年2月22日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 しかし、フリン氏は、政権幹部の指名・承認プロセスが滞るトランプ政権の中で、日本政府の幹部と接したことがあり、日本と実務で関わり合いがあった唯一の存在といってもよかった。DIA長官時代に訪日もしており、大統領選挙期間中の昨年も10月に訪日して日本の国会議員や政府高官と会談、自民党本部で講演するなどしている。昨年11月に大統領選勝利直後のトランプ氏と安倍総理がニューヨークで会談した際も同席、先週の総理訪米の際も、フロリダ州まで同行している。幅広い意見を取り入れるタイプではないトランプ大統領に政策について意見をインプットできるパイプを持つ数少ない存在として、フリン氏は日本にとって非常に重要な存在だった。

 そのフリン氏が辞任、後任にはマックマスター陸軍中将の就任が決まったが、彼の軍人としてのキャリアは中東や欧州での経験が中心である。また、選挙期間中からトランプ大統領と近い関係にあったフリン氏と違い、マックマスター中将は、陸軍時代に彼の下で働いたことがあるコットン上院議員(共和党、アーカンソー州)や、マケイン上院議員の補佐官の推薦でこのポストに就くことになったいわば「外様」で、彼が、外交・安全保障政策への関与を望んでいるといわれるスティーブ・バノン首席戦略担当補佐官以上にトランプ大統領に影響力を与えることができるようになるかは未知数だ。日本は、アジアの安全保障問題についての経験・知識・関心が未知数のマックマスター氏との関係を一から構築しなければいけない一方で、彼がどの程度、政権の中で影響力を持つようになるのかを見極めなければならない。このような状況はやはり日本にとっては不安だろう。

蜜月アピールも却って逆効果?

 そして、安倍総理以下、日本政府にとって最大の課題は、日本の国益を守るためには、トランプ政権と緊密な関係を築き、特に、トランプ大統領と個人的に親しい関係を構築する必要がある一方、毎日のように米国内外から反発を招く言動を続けるトランプ大統領と親しい関係がクローズアップされすぎると、日本のパブリック・ディプロマシー上、良くない影響が出る可能性があることだ。トランプ氏が大統領に就任してからというもの、ワシントンDCでは毎週末、トランプ大統領に対する様々な抗議集会やデモ行進が行われている。いわゆる「ムスリム入国禁止令」が署名された直後の週末は、抗議集会は全米に飛び火、何百万人もの一般の人々が抗議集会に参加し、かつての公民権運動をめぐっての活動を彷彿とさせた。

 イギリスでは、政権発足後ホワイトハウスを訪問した初の外国首脳となったテレサ・メイ英首相が、トランプ大統領に訪英を公式に招待したことが、「女王陛下に恥をかかせる気か」と英国内で猛反発を受け、政治的には沈黙を守ることが慣例の英下院議長が、慣例を破って「トランプ大統領が訪英しても、議会での演説に招待はしない」と明言し、物議をかもしている。外交政策で「国際法の尊重」「基本的人権などの国際規範の尊重」を原則として強調している安倍総理が、「アメリカ・ファースト」を標榜し、そのような価値観をどこまで共有できているのかわからないトランプ大統領との蜜月をあまりにアピールすることは、却って日本の国際的イメージの低下につながるかもしれない。

 しかし、その緊密な関係をうまく利用して、他国の首脳が言いにくいこともトランプ大統領に率直に伝え、建設的な議論ができる関係を構築できれば、世界とアメリカの「パイプ役」としての安倍総理への評価と日本への関心は高まるだろう。安倍総理がトランプ大統領と果たしてそのような関係を築くことができるかどうかを占ううえで、今月の訪米はその第一歩を踏み出したにすぎない。

  
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