中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年5月17日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 足元、ギリシャの財政赤字問題は一層深刻な広がりをみせ、ユーロ下落のみならず世界の金融市場全体を揺るがす問題に発展してしまった。5月10日に、EU緊急財務相理事会が危機に陥った加盟国支援の「欧州金融安定化メカニズム」(総額7,500億ユーロ。うち2,500億ユーロはIMF拠出分)設立を決定し、欧州中央銀行(ECB)がギリシャ国債などの買い取りを始めるなどの対策が出てきているものの、今後とも市場の動揺が続く可能性が強い。

前例がないほどのギリシャの財政再建計画

 市場の動揺が収まらない背景には、「欧州金融安定化メカニズム」が危機国の資金繰りを支援する枠組みに過ぎず、ギリシャやユーロ圏が抱える問題の本質的な解決方法は別にあるということがある。本質的な解決とは、ギリシャが大きな財政赤字を改善することであり、ユーロ圏各国がユーロの安定につながる堅実な経済運営を行うことにある。しかし、これは相当に大変といえる。

 たとえば、足元のギリシャの財政健全化計画での財政赤字改善幅は、09年から14年までの5年間でGDP比10%以上だ。ところが、これほどの大幅削減は近年の主要先進国でも例がない。しかも、この4月に発表されたIMFの経済見通しでは、ギリシャの経済成長率は2009年の▲2.0%に続いて2010年も▲2.0%のマイナス成長が見込まれている。2011年でも▲1.1%のマイナス成長見込みだ。

 このような低成長が見込まれる中で、ギリシャ政府は増税や社会保障費の圧縮、公務員の給与カットなどを計画している。しかし、マイナス成長が続く中で、これほどの厳しい財政再建を行うことは極めて難しい。身から出たさびとは言え、このままではギリシャは長期にわたって国債発行が困難となる事態が懸念される。同時に、このような事態は、EU各国やECBが長期にわたってギリシャを資金面で支援しつづけ、ユーロ安定や他の加盟国への波及を防ぐために多大な努力を続けなければならないことも意味している。

「債務削減意見」は「債務カット論」

 もちろん、EU各国とECBが全力を挙げてギリシャを支えれば、ギリシャの財政資金繰りが完全に行き詰るとは考えにくい。しかし、その財政健全化のハードルの高さから、ギリシャ問題の解決には債務削減も検討すべきとの意見も見られるようになっている。

 これは、かつての累積債務国で行われた債務処理と類似の処理をすべきと言っているようにも見える。すなわち、ギリシャの巨額債務を自助努力だけで大きく削減することが難しいとすれば、その債務の返済を繰り延べしたり、カットすることも視野に入る。その場合、過去のブラジルやアルゼンチンといった累積債務国が債務を削減したやり方、すなわち債務返済の繰り延べ、債務カットにくわえて公的債務の証券化やスワップ活用などの手段も必要となるのではないかとする見方だ。

債務カットには制約が余りに多い

 確かに、ギリシャの財政赤字の大きさや健全化への余りに厳しい道のりを考えれば、このような見方は妥当に見える。しかし、ギリシャにブラジル等の累積債務国の経験をそのまま適用することは難しい。

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