2024年4月25日(木)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年5月17日

●提案が受け入れられてダスト計測器主任研究者に大抜擢されたわけですね。

−−宇宙探査なんてやったことなかったし、ダスト計測の専門家でもなかったんですけどね。私がやったのは、どういう方向で計測器を向けたらいいのか、どれくらいの重さにしたらいいのか、といったこと。のぞみは1998年に打ち上げられましたが、結局トラブルがおきて火星投入はできませんでした。でも、ダスト計測器は4年間しっかりとデータをとることができて、これはよかったと思います。その間は毎日機械のチェックで、自分の時間の3分の1はダスト計測器にかけていましたね。

 2014年打ち上げ予定の水星探査機「ベピコロンボ」にも、日本製のダスト計測器を積みます。次の月探査機にもダスト計測器をのせる提案を出しています。金星探査機「あかつき」と一緒に打ち上げた「イカロス」にもダスト計測のシステムはのせています。図らずも、宇宙の塵を計ることのスペシャリストになった感じですね。

●ダスト計測器というのは塵を手でかき集めるようなものですか?

−−いえ。ひたすら塵が入るのを待つ箱みたいなものです。塵は毎秒数km ~50kmのスピードで計測器にあたり、プラズマを出します。そのプラズマのシグナルを電極で取って、電荷の変化から速度や質量の情報を得るんです。15×10cmぐらいの箱で、1週間に1個ぐらいの計測になりますね。塵そのものを集めるわけじゃありません。コレクターを置いて塵そのものを回収して後で地上で分析するやり方もありますが、これだと塵がいつ入ったものかはわからない。

 私は塵の動きが知りたいんです。だから、いつどれくらいの速さでどの角度できた塵なのかがわかる計測器を使います。だいたいは地球や火星のように太陽のまわりをまわっている塵ですが、中にはスピードや方向が全然違って、太陽系外からやってきたとしか思えないものもあるんですよ。スピードが全然違いますね。太陽系外からくるダストは高速です。太陽系の軌道面はだいたいが彗星や小惑星に由来する塵で覆われていますが、太陽系の面を外れると、主成分は太陽系外からやってきた塵になります。

●太陽系の外からやってくる塵を計測する……。なんだか壮大な気分になりますね。

−−ダスト計測の仕事とは別に、96年頃から「宇宙風化作用」の研究に入りました。月の岩石を覆っている細かい砂を見ると、フレッシュなものは明るい色をしているんですが、時間を経たものは黒っぽくなっているんです。隕石は小惑星由来のものですが、隕石と小惑星の間には色の違いがあります。我々は反射スペクトルの違いと呼んでいるものです。小惑星のほうが隕石よりも色は暗くなっているという現象があります。その色の変化が宇宙風化作用です。ただ、その変化の原因が解明されていなかった。

 あるとき、ロシアの研究者が、レーザー光線を鉱物にあてると色が変わるという実験結果を発表しました。宇宙空間での塵の衝突を模示するために1マイクロ秒のパルスのレーザーをあてたという話を聞いて、それではレーザーのパルスが長すぎる、とすぐに思いました。ダスト計測器の仕事をしていたので、塵の衝突を模示するには1ナノ秒ぐらいの短いパルスでないと再現できないことに気づいた。1ナノ秒のレーザーは我々のグループが持っていたので、それを鉱物にあてる装置を作ればおもしろい研究ができると思って、宇宙風化作用の実験を始めました。鉱物を使った実験なんてやったことがなくて、ほとんど素人みたいなものでしたけどね。


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