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2017年3月10日

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ジョン・ローレンソン記者(フランス・サランシュ)

フランスの風光明媚な町サランシュに住むカミーユ・ジュブンソーさんの部屋からは、欧州最高峰モンブランの素晴らしい眺めを楽しむことができる。だが、山の空気はあまり楽しめないという。

「外の空気が臭うので、出かけようかためらってしまう」とジュブンソーさんは話す。

ジュブンソーさんは、大気に浮遊する粒子状物質による汚染が危険な水準に達した昨年11月末から気管支炎、ぜんそく、耳の感染症に何度も悩まされてきた。

現在24歳のジュブンソーさんは、「家を出る前、咳や涙が出たり、つばや痰を吐かなくちゃならないような空気だったらどうしよう、と考えてしまう」と語る。「急いで歩かなくて済むよう仕事に行く時間を早めたし、もちろんサイクリングやあらゆるスポーツをしなくなった」。

全長105キロのアルブ峡谷では、これが毎年のことだ。住民約15万人のこの地域は、ムジェーブ、サン・ジェルベ、シャモニーといった世界で最も有名なスキー・リゾートに囲まれている。

季節的な大気汚染

粒子状物質(PM10)と微小粒子状物質(PM2.5)は気管まで入り込み、大気汚染物質の中でも最も健康被害が大きいが、これらの濃度が危険な水準にまで達する日が1年間のうち平均40日間ある。

冬には、フランス・アルプスのこの地域が、粒子状物質による大気汚染がフランス国内で最も深刻な場所になる。

状況をさらに悪くしているのがこの地域の地形だ。山に囲まれた深い谷の底は気温が低いため、大気の流れが停滞しやすい。

英大学キングズ・コレッジ・ロンドンで環境健康学科を率いるフランク・ケリー教授は、山が風を遮断すると指摘し、「北京の北にある山々が南の大気汚染の分散を妨げているのと同じだ」と語った。ケリー教授はアルブ峡谷の大気汚染を監視する取り組みに関わっている。

同峡谷にあるサン・ジョセフ保育園・小学校では、最も年齢の低い子どもたちは休み時間でも屋内で遊ばなくてはならない。年長の子どもは外には出られるが、走ってはいけないと決められている。

ナタリー・ゲックス教頭は、「大気汚染の警報が出るようになってからは、学校のスポーツが全て中止になった」と話す。

「スケートはだめだし、プールでの水泳さえもだめ。体育の先生は代わりに演劇のクラスを教えている。休み時間には、年長の子どもたちに地面に絵をかくチョークやトランプ、積み木を与えて、あまり動き回らないようにする」

木を燃やす習慣

天気の良い日、私はサランシュを眼下に眺める場所を目指して山に登る。もちろん自動車で。この空気の中でハイキングはしたくないからだ。

ここまで登れば、大気汚染の様子を目で見られると聞かされてきた。確かに見える。町の上空には白く厚い毛布のような汚染物質の雲がかかっている。

山に登ると、汚染の主な原因も目で確認できる。意外かもしれないが、それはモンブラン・トンネルそしてイタリアに向かって谷を通るトラックではないのだ。

主な原因とは、環境にやさしいと評価されてきた再生可能なエネルギーを使う薪ストーブだ。峡谷の家々から煙の柱が何本も上がっているのが見える。

大気汚染の問題を訴えるデモ活動を最近主催したバンサン・アズーさんは、「最新の調査では、ここの粒子状物質による汚染の6~8割は薪ストーブや暖炉が原因だと示された」と話す。アズーさんがサランシュで開いたデモには、約1000人が集まった。

アズーさんの6歳の息子はぜんそくを患っている。アズーさんも息子と同じ年齢だった頃にはぜんそく持ちだった。家族は当時パリに住んでいたが、アズーさんの健康のためにと、この地域に引っ越してきた。「清涼な山の空気」のためにアルプスに移ったわけだ。

「汚染問題を解決できなければ、両親が私のためにしたのと同じように、今度は我々も息子のために引っ越さなくてはならないだろう」とアズーさんは語る。

空気の浄化運動

峡谷の空気について何かできる力を持つのは主に、中央政府からの代表者である知事だ。

知事室はBBCのインタビュー要請に応じなかったが、今年の冬に取られた対策の詳細を教えてくれた。かなりの数の対策がとられていた。最も汚染された排出ガスを出す貨物トラックの規制、一部の産業の自主的な稼働制限、焼却処分するごみの削減、薪ストーブや暖炉以外の暖房手段がある家での薪の使用禁止だ。

アズーさんは、「明らかに不十分」と話す。「当局はスキーリゾートとしてのイメージを気にして、劇的な対策を取りたがらない」。

ゲレンデではどうだろうか。

シャモニーには毎年、多くのスキー客がやって来る。エリック・フルニエ市長は、ゲレンデは高い位置にあるため問題ないし、町も峡谷の下の方ほどひどくないと話す。

シャモニーの空気は実際、改善しているとフルニエ市長は語る。薪ストーブの機能向上を促す措置が取られているからだと言う。

しかし、冬の夜になると、シャモニーの空気は依然としてあまり良くない。薪を燃やしたことで出る煙から粒子状物質が大気に放出されている。ストーブ機能向上の取り組みをもってしてもだ。

アズーさんにとって、取るべき行動ははっきりしている。しかし、それは政治的な意思が必要になる。人々の暖房方法を変えるには、薪よりもずっと経済的なメリットがあるようにする必要があるし、もしそれがうまくいかなければ、強制的な手段になるだろう。

ケリー教授も同じ意見だ。「この大気汚染には3つの原因がある。地形や気候、そして燃料としての木材利用だ。最初の2つは変えられない。中国では雨を人工的に降らせて汚染物質を取り除く実験をしているが、我々は薪利用で対策ができる」。

2015年1月には、パリ地域の当局は開放式の暖炉の使用を禁止する命令を出した。戸が付いた暖炉より汚染物質が出やすいためだ。ただし、セゴレーヌ・ロワイヤル環境相が介入し、命令を中止させている。

フランス・アルプスの多くの住民たちは、パリのように開放式の暖炉禁止か、より包括的な薪暖房禁止策を期待している。

アズーさんはこう話す。「2年後には問題が解決できているかもしれない」。

(英語記事 Amazing views and dirty air in French Alps

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-39191286

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