学びなおしのリスク論

2017年3月11日

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漆原次郎 (うるしはら・じろう)

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』『日産驚異の会議』『宇宙飛行士になるには』など。

「天のせい」にすることで
やるせなさを処理してきた日本人

 「無常」とは、すべてのものは生滅流転し、永遠に変わらないものはひとつもないということを意味する仏教用語だ。前林氏は、無常観こそが日本人の人生観の中核をなすものと考えている。

 「日本には四季があるため、おなじことは続かないという考えかたが根づいています。そして、自然災害がひんぱんに起きるため、すべてが潰れてしまうという考え方も強くあります。なにもかもが変化していくなかで生きていく感覚があります」

 西欧では、突然ふりかかる死といえば、戦争や侵略などの殺戮によるものが主と捉えられてきた。遺された人たちは理不尽さを感じ、その恨みを人に向ける。だが、日本でのそれは、もっぱら自然災害によるものだった。「恨む相手がいなければ、次に行かないとしかたがない。日本人に無常観があるのはそれゆえです」。

 もちろん、日本人も、突然に災厄がふりかかれば、「なぜ自分たちが」という理不尽さにさいなまれる。そのとき、日本人は、そのやるせなさを「天のせい」にすることで処理しようとしてきた。天に定められた運命なのだと考える天命論や、天から罰をあたえられたのだと考える天譴論(てんけんろん)はその例だ。

 「日本における災害は、天災によるものを基本としているので、人間への恨みがすくない。そのため、あっさりと忘れていきやすいのです。無常観とは、忘れることに等しい」

 では、この無常観は、日本人の災害観や、災害対応のしかたにどう影響をあたえるものだろう。

防災面ではマイナスに作用してしまう無常観


 前林氏は、日本人の自然災害に対する心の向き方を、災害が起きた後の「復旧・復興」の側面と、起きる前の「防災」の側面に分けて整理する。

 まず、復旧・復興を進めるという面では、日本人の無常観はプラスに作用するという。

 「復旧や復興については、無常観があるため、基本的に早いといえます。無常観とは忘れることと言いましたが、それは次へ次へと前を向く感覚でもあるので、復旧・復興は進みます。それに、恨みつらみもあまり生じないことから暴動や略奪なども起こりにくい。これは支援の早さにつながります」

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