韓国の「読み方」

2017年3月14日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

憲法秩序を守るために必要だった「弾劾」

 韓国の憲法裁判所は、財閥から出資させた財団を通じて崔順実(チェ・スンシル)被告に不当な利益を得させるために大統領の職権が乱用されたことなどを認定した。さらに、朴氏が問題の発覚後も疑惑を否認し続ける一方で、真相究明に協力すると繰り返しながら実際には捜査に非協力的だったことを批判。そのうえで、「被請求人(朴氏)による一連の言動からは、法に反する行為が繰り返されないようにする憲法守護の意思を読み取れない」と断じた。

 そして、「被請求人の法に反する行為が憲法秩序に与える否定的影響と波及効果は重大であることから、被請求人を罷免することによって得られる憲法守護の利益は圧倒的に大きい」と結論づけた。

 国会は弾劾理由としてセウォル号事故対応での職務怠慢や公務員人事権の乱用なども挙げたが、憲法裁によって退けられた。同じく国会が訴追理由とし、特別検察官も立件したサムスンがらみの贈収賄事件については、憲法裁は判断を示さなかった。結果として、必要最低限の事件について違法性を認めたうえで、疑惑発覚後の朴氏の対応を重視したといえるだろう。

 憲法秩序を守るという観点から見れば、大統領を職にとどめるより辞めさせた方がいいという判断である。世論は圧倒的に弾劾賛成であり、昨年秋以降の退陣要求集会の熱気などを見れば、弾劾請求が棄却されたら大混乱に陥ることが確実だった。そういったことまでを考えれば、事態収拾には弾劾を認める以外の選択肢はなかったとも言えそうだ。

事態を深刻化させた崔被告のイメージ

 崔被告を巡る事件の実態はこれから刑事裁判で解明されることになる。ただ、事件の態様や規模としては特別に奇異なものではない。大統領の関与がどれだけあったかにもよるが、それでも現時点で受ける印象は「過去の政権のスキャンダルと本質的に大差ないのではないか」というものである。特に、韓国世論が沸騰した契機である「演説草稿文を事前に見せていた」というのは微罪にしかならない。

 だが、世論の反発は尋常ではなかった。これはやはり、崔被告が伝統的支配階層のイメージから掛け離れていたことに最大の理由があるとしか考えられない。儒教支配の長かった朝鮮半島の社会においては学問を修めた文民エリートによる統治が当然視されている。それなのに、新興宗教の教祖を父に持ち、あやしげなイメージをまとった崔被告が大統領を背後から操っていたという。それが、韓国社会に大きな衝撃を与え、結果的に大統領弾劾という悲劇につながったように思われる。

 この点については、演説草稿文の流出が暴露された2週間後に本欄で『朴槿恵大統領のスキャンダル、韓国世論がここまで燃え上がった理由』として書いた。さらに、ソウルでの取材を経た論考『朴大統領弾劾訴追の裏側 儒教的理想を直撃』が毎日新聞12月20日付朝刊に掲載されている。関心を持っていただけるなら、そちらを参照していただきたい。

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