イノベーションの風を読む

2017年3月19日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

コンテキストの体験

 飯尾醸造では15年ほど前から、里山の景観を守るという目的で借り入れた棚田で米の栽培も行なっている。標高の高い棚田に適した苗を育て、機械が持ち込めないために手作業で田植えや稲刈りをする。契約農家の作付面積30ヘクタールに対して0.5ヘクタールと規模は小さいものの、そこでは面白い取り組みが行われている。

 それは、棚田での農作業に顧客が参加するというものだ。年に6日、延べ200人が宮津を訪れて田植えと稲刈りを行う。その半数は遠方(主に東京方面)からの参加で宿泊が伴っている。参加は酢の購入者に限定しており、参加者のほとんどがリピーターだという。

 インターネットによって飯尾醸造のような地方の企業でも、日本中の顧客に(もちろん世界にも)直に商品を販売したり情報を発信したりすることが可能になった。飯尾醸造では2000年からインターネットを使った通販を開始した。登録顧客は1万人に達しており、電話などによるものも含めて通販の売り上げは全体の1/4に上るという。

 インターネットなどで酢を購入し、酢を造る為に米も作るというコンテキスト(背景や成り立ち)に興味を持った顧客が、田植えと稲刈りの体験によってコンテキストへの理解を深める。それを繰り返すことによって、顧客はコンテキストに共感し「購入者」から「ファン」に変わる。コンテキストがエンジンとなって、顧客に「購入と体験の循環」を繰り返してもらい「ファン度」を高めていくというモデルになっている。

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