特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年3月27日

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「日本国憲法は標準装備度が高いんですよ」

出口:では、日本国憲法はどのようにとらえたらいいでしょうか。

木村:他国との一番の違いは、できた時代です。フランスの人権宣言やアメリカの憲法は、18世紀の終わりに作られたので、憲法に何を盛り込まなければいけないか、まだよくわかっていなかった時代なんですね。その後、修正や改正を繰り返してようやく、書いておかなくてはいけないものが書き込まれた感じです。

 

出口:連合王国の慣習法に近いやり方ですね。成文にはしていますが、ちょっとずつプラスして憲法を作っている。

木村:そうです。フランスもアメリカも、どんどん建て増しをしている。一方、日本国憲法ができたのは第二次世界大戦後です。「憲法には、こういうものが必要だ」と、だいたいわかっていた時期ですね。そのため、「軍隊をコントロールする」「人権を保障する」「権力を分立する」「人権保障のために裁判所に違憲立法審査権を付与する」といった立憲主義の基本メニューが最初から装備されています。

 連合王国の憲法は、昔からの慣習法としてあった憲法を修正しながら使っているので、標準装備が整っていないところがある。たとえば、憲法裁判所や最高裁判所による人権を守るための違憲立法審査の仕組みがありません。法律でOKしたことについて、国民は基本的に文句を言えないんです。アメリカでもドイツでも日本でも、人権侵害を侵す法律があった場合、国民はダメだと言えるのに。

 出口さんはロンドンに住んでいたことがあるそうですね?

出口:はい、あります。

木村:私の理解では、連合王国の人たちは「自分たちは自由の祖国である」という意識を強く持っている。非常に人権意識が高い印象ですが、どうでしょうか。

出口:その通りだと思います。

木村:なので、「私たちの議会が人権を侵害するなんて、ないんじゃないか」という考え方だったのです。

出口:議会の歴史そのものが、自由を勝ち取るための戦いだったので、そこに対する信頼感が高い。わざわざそんな仕組みを入れなくても、我々はマネージできるという考え方なんでしょうね。

木村:そうなんですよ。ただ、EU化の流れの中で、連合王国もヨーロッパ人権条約に加入することになりました。加入国の国民は、自国の人権侵害について、ヨーロッパ人権裁判所に訴えることができるんです。連合王国は、この条約に加入するとき非常に楽観的で、「自分たちは自由の祖国なのだから、国民が人権裁判所にお世話になることなどない」とプライドを持っていた。ところが実際は、人口当たりの人権裁判所に出訴した割合と、裁判所で国の側が敗訴した割合が、いずれもヨーロッパワースト1位なんですよ。

出口:ええっ、まったく知りませんでした。

木村:イギリス人としては「こんなはずじゃなかった」というところでしょう。ドイツやフランスなどには、自国内に憲法裁判所、憲法院や違憲立法審査権を持つ裁判所などがあるので、人権問題が起きたらまずそこで訴えます。しかし、連合王国の場合は議会が最高決定者なので、問題が起きたら即座にヨーロッパ人権裁判所に行くんですね。連合王国の自由の歴史はすごく大事ですし学ぶべきところがありますが、標準装備が入ってないがゆえに問題が起きるのです。

出口:そういう面で、日本国憲法は非常に標準装備度が高い、と。

木村:そうです。後からできた方がやっぱり装備が整っていると思いますね。

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