2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2017年4月11日

――ロシアの核戦略の中には、日本を核攻撃する計画もあるのでしょうか。

小泉:ロシアの参謀本部の中には日本を核攻撃するオプションも用意してあるのでしょうが、標的は自衛隊の基地というより米軍基地でしょう。日ロ間の軍事的な対立レベルは低いので、日本を攻撃する優先度はそこまで高くないと思います。

 ロシアが本当に核戦力を使うのは、日本と通常戦力で戦って劣勢になりそうな場合でしょうが、そのシナリオ自体が考えにくいです。今ヨーロッパでロシアと緊張が高まっているのは、ソ連崩壊後、ロシアの勢力圏だと思っていた地域が西側に取り込まれそうになっているからです。

――昨年の日ロ首脳会談では北方領土問題が話題になりましたが、より重要なのは、平和条約締結によりロシアの危険度を下げることなのでしょうか。

小泉:日本にとってのロシアの危険度はそこまで高くはないものの、日ロ間でずっとわだかまりが続くことは戦略的に望ましくないため、それを取り除こうとはしていますね。一番の原因は相互不信だと思います。結局日本は米国の同盟国であり、そんな国に領土を譲り渡すのは心配だ、ということをロシアは繰り返し言っています。

神保 謙: 慶應義塾大学総合政策学部准教授、 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。南洋工科大学ラジャラトナム国際研究院客員研究員などを歴任。

神保:過去数年間の航空自衛隊のスクランブル数は、冷戦期の最も多い時期に匹敵します。中国機への対応が急速に増えたことに加え、ロシア機も過去3年ほど活発な活動を続けています。

 日本は新しい防衛大綱のもとで力点を中国と接する南西にシフトしたいのですが、北方から離れられない状態であり、ロシアが自衛隊の構造改革を遅らせているともいえます。日本は中国とロシアの二正面で防衛態勢を維持する余裕はないので、ロシアとできるだけ信頼関係を深めて中国に注力できる状態にしていく必要があります。さらに外交戦略まで踏み込むと、日本は中ロ分断を進める必要があるでしょう。

戸崎:中ロを分断するという意味においては、日本は基本的価値、あるいは国際秩序などよりは、もっと「利益」の側面に焦点を当てる方が良いと思います。

神保:その通りだと思いますね。ヨーロッパから見たロシアとアジアから見たロシアは違い、アジアにとっては機会主義的な見方ができると思います。

小泉:ロシアは、アジア太平洋にはそんなに不満を抱いているわけではなく、むしろ期待を持っています。ヨーロッパの国々と付き合ってもそこまで高度成長を望めないので、アジアに入っていくというポジティブな姿勢でいます。これまでは中国という非常に大きなパートナーがいましたが、その次に日本とどんな関係が結べるかというのがロシアの関心だと思います。その時に日本がロシアをうまく引き付けることで北方の脅威を軽減し、南西側の脅威に専念できるようにすることが、安保上の重要な方策でしょう。


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