2024年4月20日(土)

田部康喜のTV読本

2017年3月23日

 お笑いタレントの又吉直樹氏が芥川賞を受賞した「火花」がドラマ化され、有料放送のNetflixの上映を経て、NHK総合(日曜夜11時)10回連続で放送している。第4回(3月19日)からドラマはいよいよ終盤に向けて、物語の展開は加速度を増しそうである。

登場人物たちの心象風景と、都会の風景が重なり合う

 芥川賞の受賞にあたって、又吉氏は「芥川龍之介への手紙」と題する記念エッセイのなかで、龍之介の「或阿呆の一生」の次のような一節を引用している。

 架空線(電線・架線)は相変わらず鋭い火花を放っていた。彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかった。が、この紫の火花だけは、――凄まじい空中の火花だけは命と取り換えてもつかまえたかった。

 原作の「火花」の魅力のひとつは、お笑いの世界のなかで、勝ち抜こうとする青春群像が「凄まじい空中の火花」をつかもうとして命を懸ける、その姿にある。彼らの群像劇は、東京という都会の憂愁のなかで演じられていく。

Zoonar

 ドラマの主人公は、お笑いコンビ「スパークス」のボケ役である、徳永太歩(林遣都)と、彼が「師匠」と仰ぐ「あほんだら」のボケ役の神谷才蔵(浪岡一喜)である。

 ふたりが偶然に出会った、熱海で催された花火大会の野外の演芸会場や、神谷が本拠地だった、大阪から上京して、徳永と待ち合わせる吉祥寺の街……カメラは空中から群衆のなかにふたりの姿をとらえる。

 神谷と同棲している宮野真樹(門脇麦)の部屋を目指して歩いていくふたり。神谷の誘いを携帯電話で受けて、走って待ち合わせ場所に向かう徳永は、風景を切り裂いていく。

 登場人物たちの心象風景と、都会の風景が重なり合う。ドラマは舞台となる場所が、原作とは少々異なるところもあるが、その魅力は変わらない。そして、徳永と神谷が交わす漫才のような会話の数々もまたそうである。


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