WEDGE REPORT

2009年2月20日

»著者プロフィール
著者
閉じる

隂山英男 (かげやま・ひでお)

立命館大学 教育開発推進機構 教授
小学校教師時代から反復練習で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立。2003年4月に尾道市立土堂小学校校長に就任し、現職に至る。著書に『学力は1年で伸びる!』(朝日新聞出版)などがある。

学力低下止まらず
危機的状況の日本の教育界

 学力低下は、まだ止まっていない。私が教育委員を拝命した大阪府では、学力テストの結果の公開が問題になっているが、そもそもこんな枝葉の問題が議論されることに私は焦ってしまう。一部の国際調査で日本の学力の下げ止まりは見えてきたが、ほんの10年前までは、例えば数学では、日本が苦手と言われるPISA学力調査ですら、日本は1位だったのだ。

 そもそも、学力低下の本質的な原因は、日本の社会の夜型化による生活習慣の崩れであった。近年の調査によって、ようやく睡眠や食事の習慣如何で学力も体力も低下することがわかってきたが、そこは今まで重視されなかった。そして、不登校や校内暴力は教師の画一的指導が悪いといって、安易に指導内容を簡単にし、学ぼうとしない子を甘やかしてしまった。

 そのため、皮肉なことに、伸びるという実感を失った子どもたちは、自信を失い、学力以上に意欲をも低下させてしまった。このゆとり教育は約20年続いたため、大人になっても都道府県名すらわからない、漢字の読み書きもまともにできない、基本的な科学的知識もない若者が大量に社会に入ってきた。

 私は、この現状に対して、具体的な解決例を示してきた。生活習慣の改善と読み書き計算の徹底反復という日本の伝統的な指導法への回帰を主張し、具体的な実践を通じて、その分析の正当性と課題解決の処方箋を示してきたのである。私はこの数年で、短期間での学力向上の具体的な方法を、広島県尾道市立土堂小学校の実践で完成させ、山口県の山陽小野田市や京都府八幡市で展開し、その有効性を実証してきた。例えば、山陽小野田市では、約4000人の全児童に指導を行った結果、9カ月間に子どもたちの知能指数の平均は9ポイント上がり、算数の偏差値は4ポイント上がり、県でも最低に近いレベルだった学力は、1年でほぼ県平均のレベルにまで上昇した。

 実績を受けて、文部科学省は、早寝早起き朝ごはんを国民運動とし、新しい指導要領においては、こうした指導法がやりやすくなるよう2008年3月から指導要領を改訂した。

 こうなれば、問題は解決に向かうと思われるだろう。だが、そうはいかない。というのは、新しい指導要領は、内容が高度化している。しかし、学力調査の結果、子どもたちの基礎学力はまだ高まる傾向を見せていない。基礎学力が伸びていないのに、学習内容を高度化すれば、またしても校内暴力や不登校の急増につながる危険性が高まる。

 新しい指導内容には新しい指導方法が提起されなければいけない。私は新しい指導方法として、先述の徹底した反復学習やICT(情報通信)機器を使った学習を導入することで解決しようと考えてきた。しかし、多くの現場に危機感はない。信頼回復をかけ、昨年の夏、文科省は全教職員に新しい指導要領を配ったが、これらはほとんど活用されていない。聞けば、予算と定数を増やしてほしいという要求ばかりである。つまり、予算が増えないからできないという話ばかりである。予算を増やすべきだという声には同意する。しかし、だからといって何もできないことはない。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る