2024年4月23日(火)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年6月7日

 説明の必要はないだろう。日産のインフィニティというブランドが、どのようなイメージで受け入れられているかを示す実例だ。こと、本書のようなベストセラーでは、大多数の人々が同じイメージを持てるような事物をとりあげるのが通常だ。それが読みやすさにつながるからだ。読みやすくなければ、一部の例外を除き、ベストセラーにはならない。いい意味でも悪い意味でも、アメリカ社会でのステレオタイプなイメージを投影するのがベストセラーの宿命なのだ。

 悪事で一財をなした、ある登場人物の部屋の描写には、次のようにソニーが出てくる。

 The dish was connected to a box, and the box was connected to an enormous Sony LCD screen on the end wall of the living room. (p221)

 「その衛星用の円盤型アンテナは箱につながっており、その箱はリビングの壁にあるソニーの巨大な液晶スクリーンにつながっていた」

 エレクトロニクスといえば、いまや韓国のサムスン電子がソニーを上回るブランド力を世界市場では持つとされる。しかし、こうした小道具としてソニーが登場するあたりは、まだソニーのブランド力、アメリカ人にとってのイメージ喚起力の強さを物語る。このほか、本書にはいすゞのトラックも出てくる。

タイトルの意味

 今回は、日本企業の名前が出て来る箇所に限って紹介した。最後に、本書のストーリー自体にも少し触れたい。まず、本書のタイトルだが、ある出来事が起きるまで「61時間」という意味。冒頭にまず、「あと61時間」と出てきて、話が進むにつれて、残り時間が減っていくカウントダウン方式でサスペンスを盛り上げる。ある出来事とは、まさに作品の最後にならないと分からない。いったい何が起きるのか、という謎がひとつの仕掛けだ。

 さらに、主人公のリーチャーが足止めをくらった田舎町では、町のならず者たちを被告人とする刑事裁判で証言台にたつことを決意した老女が、ならず者たちが放った殺し屋に狙われている。その殺し屋がだれで、いつくるのかが分からないまま、リーチャーはその老女の護衛をかってでる。リーチャーは老女を守りきれるのか。果たして、どんな殺し屋がやってくるのか。この謎解きも読者をひきつけてやまない、もう1つの仕掛けだ。

 ベストセラーはなにより読みやすいうえに、冒頭から読者を物語世界に引き込まなければならない。それだけに、日本人にも読みやすい場合が多い。短いセンテンスで歯切れよい文章で畳み掛けるようにストーリーを進める本書は特にそうだ。

 次に、冒頭のわずか3つのセンテンスだけをひく。

 Five minutes to three in the afternoon. Exactly sixty-one hours before it happened. The lawyer drove in and parked in the empty lot. (p3)

 「午後3時5分前。その出来事が起きるまで、ちょうど61時間前だ。その弁護士は空っぽの駐車場に車を乗り入れた」

 自分でも読みこなせると、思ったかたが多いのではないだろうか。どうぞチャンレンジしてみてください。


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