科学で斬るスポーツ

2017年3月28日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

 脇をあけるとはどういうことか。下のイラスト(図1)は、筒香のバットがボールに当たるインパクトの瞬間のフォーム。右肩周辺を見て欲しい。

 この時、右脇を意図的に体から離している。右脇下にスペースがあいているということだ。肘を折り曲げ、左肩は下げず、体幹を鋭く、強く回転する。バットが地面に対して水平にでていることがよくわかる。これによって動くボールについていけるというわけだ。打球も強く、遠くへ飛ばすことができる。

図1 筒香のインパクトの瞬間の打撃フォームのイラスト。右脇があき、バットが水平になっている

 筒香の打撃には、もう一つ大きな特長がある。軸足側に重心を置き、ボールを引き付け、体の前でボールをとらえることにある。構えからボールをとらえるインパクトの瞬間まで重心軸がほとんどずれない。ミートポイントが後ろになり、ボールを前でさばく選手より長くボールをみることができるので、変化球に対応できる。

左への本塁打、急増

 プロ野球の監督を務めたことのあるベテラン解説者が、2年ほど前、筒香の左脇をあける打ち方について「(力が伝わらず)レフト方向に本塁打が打てない。4番打者として致命的である」と指摘した。実際、2015年のシーズンは24本塁打を放ったが、レフト方向には皆無だった。

 しかし、筒香はバットを水平に保つという信念を変えなかった。レフト方向への本塁打を増やすために、インパクトの瞬間、脇を開き、その後脇をしめて、ボールに体全体の回転の力を伝える巧さを身に着けた。そのためにやったのが体幹強化や体の柔軟性を高めるためのトレーニングだ。筒香は身長185センチ、体重97キロと大リーガー並みに体を大きくした。

 その結果が2016年の成績だ。脇を開けて、その後しめるという巧みな技術は、内角を打つときのスイングスピードを一段と速くした。外角球にも適応できる技術を習得し、レフト方向への本塁打は44本中11本と飛躍的に増加した。

 下の図2は、44本塁打のコース別の結果だ。外角球をスタンドに運んだのは14本。特筆すべきは、筒香はすべてのコースで本塁打できているということにある。

図2 昨シーズンの筒香のコース別本塁打数 (提供:フェアプレイ・データ)写真を拡大

 確実性が増したのは、「脇をあける」ということ以外にもある。ステップの際に右足を上げる時間を短くしたこともその一つ。従来、筒香は右足を高く上げて、タイミングをとっていたが、それを小さくし、ステップ幅を小さくした。これによって目の上下動が減り、変化球についていけるようなった。体幹の軸がぶれない、構えの時から頭やグリップを動かさないことも確実性を高める要因になった。

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