WEDGE REPORT

2017年4月5日

»著者プロフィール
閉じる

吉富望 (よしとみ のぞむ)

日本大学危機管理学部教授

1983年に防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊に入隊。野戦特科部隊勤務および陸上幕僚監部、防衛省情報本部、防衛省内局、内閣官房内閣情報調査室等の勤務 を経て2007年から第1地対艦ミサイル連隊長、2009年から防衛大学校教授、2013年から陸上自衛隊研究本部総合研究部第1研究課長、2015年4 月に陸上自衛隊を退官(退官時の階級は陸将補)し現職。主たる研究分野は、アジア太平洋地域の安全保障、陸上自衛隊の態勢、自衛隊(軍)による人道支援・災害救援、民軍連携。

【学歴】1983年3月 防衛大学校(国際関係論専攻)卒業。2006年3月拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了。修士(安全保障)。2013年3月  拓殖大学大学院国際協力学研究科博士後期課程単位取得退学。
 

南シナ海の平和と安定に寄与する陸上自衛隊

 3月13日付のロイターは、海上自衛隊の護衛艦「いずも」が本年5月から約3カ月間にわたって南シナ海とインド洋に派遣されると報じた。この間、「いずも」は約2カ月間にわたって南シナ海で活動し、米海軍との共同訓練を行い、フィリピンやインドネシアなどに寄港する模様である。

 南シナ海では中国が南沙諸島等で一方的に大規模な埋め立て工事を行って複数の人工島を造成し、滑走路の建設を含む軍事拠点化を進めている。こうした南シナ海の平和と安定を脅かす行為に対して、米海軍は「航行の自由作戦」を実施して中国をけん制しているが、「いずも」を長期間にわたって南シナ海に派遣することは、そこを通る海上交通路(シーレーン)に経済活動の多くを依存する日本として相応しい活動であり、高く評価できる。

海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」(REUTERS/AFLO)

「いずも」の能力の最大限活用を

 「いずも」はヘリコプターを14機搭載可能であり、その航空運用機能は海上自衛隊の艦艇の中で最も高い。また「いずも」は、艦内に陸上自衛隊の隊員約400名の居住及び大型トラック約50両の搭載が可能であり、その部隊輸送機能も高い。加えて「いずも」は、35床の入院設備ならびに歯科治療や外科手術も可能な設備を有しており医療機能も高い。更に、艦内の格納庫に陸上自衛隊の野外手術システムを展開すれば、その医療機能は一層高まる。このように「いずも」は航空運用機能のみならず部隊輸送機能、医療機能などに優れた多機能艦である。しかし、報道を見る限りでは、「いずも」が南シナ海方面に展開する際に陸上自衛隊の部隊(医療部隊を含む)を同乗させるとは読み取れない。

 南シナ海の平和と安定は、海洋やその上空は勿論、南シナ海沿岸部においても「法の支配」に基づく平和的な秩序が維持されることで成り立つ。このためには南シナ海沿岸諸国、特に中国の行動に脅かされている国々が、民生を安定させて民主的な価値観を堅持するとともに、紛争の平和的な解決を追求することが重要である。同時に、これらの国々が領土、領海、領空を防衛するための適切な防衛力を保有し、抑止力を高めるために同じ価値観を有する日本、米国等との安全保障上の協力関係を維持することも重要である。したがって、自衛隊が南シナ海の平和と安定に寄与する際には、民生の安定に寄与する活動とともに、適切な防衛力の構築に寄与する活動にも目を向ける必要がある。

 この際「いずも」は、その多機能性をフルに生かして様々な活動を行う、あるいは活動の基盤となることができる。具体的には、「いずも」が洋上で南シナ海沿岸諸国の海軍及び米海軍との共同訓練を行って海軍同士の協力関係を深める一方、「いずも」に乗艦する陸上自衛隊の部隊(医療部隊を含む)は寄港先で一時下船して米陸軍・海兵隊と連携しつつ同地の陸軍や海兵隊との共同訓練、能力構築支援、住民に対する民生協力を実施することができる。つまり、「いずも」に陸上自衛隊の部隊を乗艦させて南シナ海沿岸諸国で活動させることにより、「いずも」が南シナ海の平和と安定に寄与する度合いは大きく高まる。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る