2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2017年4月5日

陸上自衛隊が南シナ海の平和と安定に寄与しうる活動とは

 それでは、「いずも」に乗艦した陸上自衛隊の部隊が南シナ海沿岸諸国において実施できる活動を具体的に考えてみたい。これまで陸上自衛隊は、平素においてこれら諸国で民生の安定に資する活動を行ってきており、「いずも」に乗艦した陸上自衛隊の部隊が同様の活動を行うことは可能であろう。

 例えば、災害救援や在外邦人等の輸送に関する共同訓練、住民に対する医療活動や施設の補修等の民生支援は代表的な活動である。加えて、陸上自衛隊は2012年から東南アジア諸国等の軍のニーズに応じて人道支援・災害救援、地雷・不発弾処理、衛生、施設建設、国連平和維持活動等に関する能力構築支援を実施している。

 したがって、陸上自衛隊の要員や部隊が「いずも」の寄港地において上記と同様の分野で短期間の能力構築支援を行うことにも支障は無い。特に、自然災害が多発する南シナ海沿岸諸国には、災害救援に関する支援・協力への期待が大きい。今後、「いずも」などの海上自衛隊の大型艦が陸上自衛隊の施設部隊等を乗せて南シナ海を定期的に巡航し、災害救援に関する支援・協力の質と量を拡充させていくことは、地域諸国の民生の安定に大きく寄与する。

 他方、現在の南シナ海における軍事情勢を見たとき、南シナ海沿岸諸国が適切な防衛力を保持する上で陸上自衛隊が寄与できる分野を検討しておくことも必要である。例えば、中国軍が南シナ海の人工島を基地として南シナ海での艦艇や航空機の活動を活発化させ、更には南シナ海から西太平洋やインド洋に海空戦力を進出させる状況が生じた場合、南シナ海沿岸諸国が自国防衛及び南シナ海の平和と安定のために陸上自衛隊に協力を求める分野は何であろうか。一例としては、海上安全保障の一環としての地対艦戦闘の分野が想定できる。

陸上自衛隊が有する地対艦戦闘に関わるリソースの活用を

 陸上自衛隊は1992年に最初の地対艦ミサイル連隊を創設し、それから25年以上にわたって地対艦戦闘に関わるハード、ソフト両面のリソースを蓄積してきた。南シナ海沿岸諸国にとってこうしたリソースは、中国の艦艇に対処する上で貴重なものである。なお、地対艦戦闘に関わるこうしたリソースは、米陸軍や海兵隊でさえも有していない。

 米軍では従来、対艦戦闘は海空戦力が行ってきたが、中国軍のA2/AD能力の向上に伴って西太平洋において海空戦力の行動の自由が制約されるおそれが強まっている。米太平洋軍司令官のハリー・ハリス海軍大将が2016年5月の太平洋地域地上軍シンポジウム(LANPAC)や2017年2月の米海軍協会の会議(West 2017)において繰り返し陸軍や海兵隊に対艦攻撃を働きかける背景には、西太平洋での中国軍との戦いにおいて、対艦戦闘については陸上戦力による対艦攻撃に頼らざるを得ない実情が透けて見える。しかし、こうした期待に対する陸軍や海兵隊の対応は未だに具体化していない。


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