野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2017年3月28日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 香港社会で最大の問題は社会の「分断」という点では、どの立場の人でも見解は一致している。それは総じていえば、香港社会における「親中派」と「それ以外」の分断であり、同時に、中国と香港の分断でもある。親中派と「それ以外」を結びつけるには、どちらにも受けいられる人材がベストである。

選挙結果と世論調査が違う理由

 今回の選挙の結果は、林鄭氏の圧勝だったが、一般人に対する世論調査では、どの調査結果をみてみても、ダブルスコアで、曽氏が上回っていた。しかも、若い世代ほど曽氏への好感度は高かった。長く中国政府にとって頭痛の種だった民主派も支持している。香港における独立的な主張を押さえ込み、「団結」をもたらすには、曽氏に行政長官をさせたほうが賢明な選択に思える。

 しかし、結果として、民衆人気の低い林鄭氏をトップにしてしまった。必ずしもべったりの親中派とは目されてもいなかった林鄭氏を、結果的に「中国と近くて、民衆に不人気な行政長官」にしてしまった形だ。民主派は早速、林鄭氏について「社会の分断がさらに加速する恐れがある」といった批判を唱え、その就任で香港の将来がさらに不透明になっていくような印象を広げようとしている。

 中国政府は、香港問題を本当に解決したいのか、それとも、香港から「利益」を得たいだけなのか。返還から20周年を迎え、一人一票の普通選挙を認めないなど、これまでの中国政府の硬直的な対応によって香港の繁栄を支えるはずだった「一国二制度」「高度な自治」「50年の保障」といった返還の前提だった「約束」への信頼感が、香港内だけでなく、国際的にも揺らいでいる。香港返還から20年となる今年7月には盛大な記念式典も予定され、習近平氏も出席すると見られている。いま重大な曲がり角にある香港の「脱中国化」を反転させる楔を打たなければ、香港情勢はさらにリスクを高めていくだろう。

  
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