2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月4日

 イグネイシャスが、貿易が米国の雇用を奪ったとのトランプの議論は誤りであると述べています。米国の製造業の原因が貿易ではなくオートメーションであるとの指摘はつとに行われていますが、イグネイシャスはトランプの議論の誤りの影響は深刻であると言っています。

 大統領選挙でのトランプの支持者の中心が、経済発展から取り残された白人のブルーカラー労働者で、トランプは彼らの雇用を取り戻すべく、米国の貿易赤字を減らすことを最優先課題としているので、その政策の大前提が誤りであるというのは座視できない問題です。

 製造業における雇用の喪失の主たる原因が生産性の向上、つまりオートメーションであることは数字が立証しています。

ラストベルトの労働者

 イグネイシャスが、製造業の雇用減少の原因を貿易であると誤って理解したことで、ラストベルトの労働者に、再び製造業に就業できるとの誤った希望を与えたのみならず、彼らが職業訓練を受けなくさせているのは深刻な問題である、と言っているのはその通りでしょう。ラストベルトで職を失った労働者の再就職は容易ではありません。教育程度が低いうえに、かなりの年齢に達しているものが多いと想像されますので、たとえ職業訓練を受けたとしても、製造業での就職がオートメーションの影響でますます困難になっているとすれば、再就職口はサービス業で、それもIT関連のような、知識と技術が要求されるものは無理と思われます。

 もう一つトランプの政策の前提が誤っていたことの深刻な影響は貿易に対するものです。トランプがかなり強引に米国の貿易赤字を減らそうとして、保護貿易的政策を追求すれば、戦後築かれてきた世界の自由貿易体制は打撃を蒙り、世界経済の足を引っ張ることとなるでしょう。

 米国の貿易赤字を減らすことにより雇用を増やそうとするトランプの政策が、有効でないことはいずれ判明します。その時トランプはどうするのでしょうか。雇用減の主たる原因がオートメーションであることを素直に認め、軌道修正をすればよいのですが、政策の大前提が誤りであったことを認めず、スケープゴートを探すようなことになれば、米国経済、ひいては世界経済の足を引っ張る恐れが多分にあります。

  
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