2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2009年2月20日

実態と乖離した教育学が
現場を萎縮させる

 現場で実践が広がらないもうひとつの背景は、今の教育学部は教員養成に主眼があり、教育学が現場の実態と乖離しがちであるという点である。

 まず、次の文章を読んでいただきたい。

 「ドリルとテストが多い学校は、貧しい地域にあります。なぜかといえば、教育歴の低い親たちにとっては、テストやドリルこそが教育なのです。100マス計算が普及している学校は一般に貧しい地域にあります。全国学力テストで大阪が最低レベルであったことは、象徴的です。基礎学力を追求すれば追求するほど基礎学力が落ちていきます」

 根拠となる事実やデータの開示がまったくないまま、こうしたことが堂々と語られてしまう。そもそも、教育歴の低い親というのは、どういう人を指しているのか。こんな人権感覚すらない言葉を発しておられるこの方は、東京大学で教育学部長を務められていた方である。

 私は反論も批判もする気はない。ただ、こうした言葉が教師相手に平気で語られているという事実が教育界にはあるということを、多くの人に知っておいていただきたい。こうした論理が背面から投げつけられるなら、現場は萎縮してしまうだろう。私たちの実践に限らず、実績をあげているやり方がなかなか広がらない理由の一端がここにある。

 では、どうするか。何より教育界の閉鎖性を打破することが重要である。

 まず、校長人事である。教師の力量次第で子どもの成長は変わる。確かにそうだ。しかし、よく考えてほしい。いい教師が指導したとしても、しょせんは1年のものである。校長がリーダーシップを取り、しっかりした体制の中で6年かけて指導する方が子どもの成長の度合いは大きい。大阪府では、民間校長の導入を皮切りに、他府県の教師を含めた優秀な教師を、教頭を経ずして校長にする若年校長制度などを導入する検討を始めた。意外と思われるだろうが、優秀な教師は他の教師とのバランスを崩すとして冷遇されることも多い。そうした教師を校長に抜擢することで、停滞しがちな校長任用を進めたいと考えている。どの会社でも、管理職人事はトップの意志で動く。しかし、校長は本人の希望に基づく管理職試験を経て任用される。指導力量のある教師を校長にしようと思っても、本人が管理職試験を受けないと抜擢はできない。若年登用は、こうした停滞しがちな管理職任用を活性化させることができる。

 改革の第二は、一般社会による学校支援である。
大阪では今回の知事の問題提起で、いろいろな議論があっても、結果的には学校教育を見直す大きな動きが起きてきた。知事の言葉は確かに時に物議を醸すものであっても、その真意は問題点を射貫いている。悪い成績でありながら、何も発言しない首長の方がおかしい。首長は、教育内容に直接発言できなくても、学校へのミッションを明確にし、しかるべき人間を教育委員にすることや、その教育委員との連携の中で、予算編成権や教育委員会人事権を駆使して、教育委員会の停滞を防ぐべきである。

 こうした支援があって、私たちも教育界内部から、改革を具体的に提起できるようになった。教育現場は混乱しているという教師は多いが、知事の動きで元気を取り戻した教師だって多いのである。教師や教育委員会といっても千差万別である。今後は、誰が本当に教育のことを真剣に考えているか、あるいは考えているふりだったかが、あぶり出されてくるだろう。そのためには、地域の人が直接学校に対して発言したり、協力をしたりする場として学校地域支援本部のような組織が作られ、学校が地域と連携して子どもを伸ばすことが必要になるだろう。


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