シリーズ「待機児童はなぜ減らないのか?」

2017年4月14日

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小林美希 (こばやし・みき)

労働経済ジャーナリスト

1975年生まれ。株式新聞社、毎日新聞エコノミスト編集部を経て2007年2月からフリーのジャーナリスト。「ルポ看護の質〜患者の命は守られるのか」「夫に死んでほしい妻たち」(朝日新書)、(岩波新書)「ルポ保育崩壊」(岩波新書)と「ルポ母子家庭」(ちくま新書)「ルポ“正社員”の若者たち」(岩波書店)、「看護崩壊」(アスキー新書)、「ルポ職場流産」(岩波書店)、「ルポ産ませない社会」(河出書房新社)など

 前回も記したが、文部科学省「学校基本調査」の卒業後の状況調査(2016年度速報)を見てみると、夜間や土日祝日にニーズの高い働き方が増えていることが伺える。就職先で多い産業は、男性の場合、「卸売業・小売業」(17.0%)、「製造業」(14.8%)、「情報通信業」(10.5%)となっている。女性では、「医療・福祉」(19.5%)、「卸売業・小売業」(15.2%)、「金融業・保険業」(10.7%)、「教育・学習塾」(9.8%)となる。職種を見ると男女とも、トップが「専門的・技術的職業」で、医師や看護職、システムエンジニアなどの長時間労働の目立つ職業が増えている。正社員になったとしても、ワークライフバランスを図ることが難しい業界や職種に雇用の受け皿がある。

 そうしたなかで、「社員=親」ということが理解されない職場であると、子育てのためワークライフバランスを図ろうとすれば左遷されるケースもあり、最悪のケースは退職に追い込まれてしまう。依然として労働環境が厳しいなかで、正社員で残業せずに保育所にお迎えに行くことは困難な状況だ。

 育児介護休業法の「短時間勤務制度」は、子が3歳未満の社員は1日6時間労働が認められているが、育短を取得できることになっている。労働基準法でも、30分の「育児時間」を1日2回取得できることになっている。しかし、厚生労働省の「2015年度雇用均等基本調査」によれば、育児のための「短時間勤務制度」が「ある」企業は57.8%で、約4割の企業には制度すらない。制度があっても、最長利用可能期間が最も多いのが「3歳に達するまで」(59.7%)で「小学校就学の始期に達するまで」は19.8%に留まる。

お迎えで早く帰っても、仕事は持ち帰り

 そして、国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」(2015年実施)では、「育児時間制度・育児短時間勤務制度」を利用した女性は、わずか7.1%しかいない。それだけ、延長保育などのニーズがあるわけだ。取材のなかでも、仮にお迎えのために早く帰ったとしても、実際には仕事を持ち帰り、深夜や早朝に自宅でPCに向かっているケースは決して少なくない。

 この間、雇用環境だけではなく、社会構造そのものも変わった。2005年と2015年の10年を比べると、「児童のいる世帯」は33.3%から23.4%に減った。その一方で、核家族は69.3%から80.9%に増えている(厚労省「国民生活基礎調査」)。つまり、小さな子どものいる世帯が、社会から見えづらくなっているのだ。

 ベネッセ次世代育成研究所が行った「第4回 首都圏・地方支部ごとにみる乳幼児の子育てレポート」(2010年9月)では、0~2歳児の子育て調査を行っている。自宅で母親と子どもだけで過ごす時間が1日15時間以上というケースが、22.1%で、5人に1人は寝る時間以外はほとんど母子で生活をしていることになる。そして、3人に1人の母親が、子どもの祖父母に子どもを預かってもらうことが全くない。さらに、4人に1人の母親は、地域の中に、子ども同士を遊ばせながら立ち話をする程度の人が1人もいない。7年前の調査であるが、実情は今もさほど変わらないだろう。

 もし母親が「妊娠解雇」に遭っていれば、職場から分断されるため、なおさら孤立は深まる。これでは、虐待あるいは虐待一歩手前というのが他人事ではなくなっていく。子育て世代の雇用が崩壊し、社会が子育てに不寛容であるなかでは、保育所に一層と「親支援」という役割や、地域とつながる新たな役割が必要とされている。現在、それは保育所内で行われる地域に向けた一時保育や、地域に開放された地域子育て支援事業に見られるが、そうした機会の拡充はもちろん、在園児にも親が安心して子育てに向かえるための保育環境の整備や「子どものための親の安定」を意識した保育が求められているのではないだろうか。

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