2024年4月20日(土)

百年レストラン 「ひととき」より

2017年5月11日

手前はコースの前菜。左から里芋しんじょうずんだのせ、葡萄の白和え、じゃこ天チーズ焼き。奥は「新涼造り」。昆布出汁をかけた牛肉を冷まし、お造りのように供する

ワインとのマリアージュを追求

 紫朗氏は、新たな料理も開発。夏場でも牛肉を楽しんで欲しいと、昭和43年(1968)に「新涼造り」というメニューを出し始めた。これは、日本初の冷しゃぶらしい。

 「形を変えずにそのままやっていくのではなく、時代に合ったもの、新しいものを作っていこうという姿勢こそが伝統だと思います」

 
藤森朗さん。クラシカルなスーツか和服で客をもてなす

 そう語る朗さんも、新たな食文化創造に挑んでいる。大学卒業後、ドイツに渡って鉄板料理店で働いた朗さんは、彼の地でワインに魅了された。平成2年(1990)に帰国し、1年間教室に通ったうえでソムリエの資格を取得したのだ。

 「普通、ステーキならカベルネ・ソーヴィニヨンが合いますが、脂身が多い和牛には単純にそうもいかない。しかもすき焼きは割り下を使うので、肉のアミノ酸と糖分などが複雑に絡み合います。果実味が多くて熟成したワインが合うと私は思っているんですが、まだまだ勉強中です」

 興味深い話が一段落したところで、すき焼きをいただくことに。肉は他店と比べ厚みがあるうえ、かなり大きい。ロース肉1枚60グラムほどで、一人前が3枚。鍋に割り下を注ぎ、肉を入れて煮るという作り方だ。

割り下を注いだ鍋に、肉を入れて炊く。一切れ約60グラムもあって、鍋いっぱいの大きさに広がる

 「明治の初め、牛鍋の味付けは味噌でしたが、うちは最初から醤油。割り下で炊いていました。開店当初から、ずっとこのやり方です。ただし割り下は、その時々で味を変えています。肉は手切り。スライサーと違い、手切りでは肉の切り口が凸凹(でこぼこ)しますので、よりうまく割り下と絡むんです」

 古さと新しさが混在した鍋を堪能した。

写真・伊藤千晴

今朝
<所在地>東京都港区東新橋1−1−21 今朝ビル2階
(山手線、東京メトロ銀座線ほか新橋駅から徒歩約3分)
<営業時間>11時30分~14時、17時30分~21時30分(21時ラストオーダー)
<定休日>土・日曜、祝日(12月の土曜は営業)
<問い合わせ先>☎03(3572)5286 

  
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◆「ひととき」2016年12月号より


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