それは“戦力外通告”を告げる電話だった

2017年6月6日

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高森勇旗 (たかもり・ゆうき)

元プロ野球選手

1988年生まれ。富山県高岡市出身。中京高校から2006年横浜ベイスターズに高校生ドラフト4位で入団。田中将大、坂本勇人、梶谷隆幸やと同学年。12年戦力外通告を受けて引退。ライター、アナリスト、マネジメントコーチなど引退後の仕事は多岐にわたる。

 勤務先の会社は、資格を取るサポートをする会社で、会計士を目指しているのは奥村だけではない。その中には合格した者もいる。会社主催で、合格者への祝賀会が開かれた。仕事として、祝賀会の運営に回った奥村は、さすがに耐えられなかった。

 見かねた上司が仕事中にも関わらず奥村を食事に連れ出した。奥村は号泣した。もう、諦めよう。家に帰り、妻に相談した。「コンサルに興味があり、転職しようと思っている」。妻は激しく反対した。

 「野球も会計士も中途半端な人間にコンサルされたい人なんていない。このままいったら、壁にぶつかる度に逃げ出す中途半端な人生になる」

 奥村は、目が覚めた。

 「もう一回、1次からチャレンジしよう。絶対、諦めないと決めた」

 13年、ついに2次試験に合格。足掛け9年。奥村は二度目の夢を叶えた。

 監査法人での2年間の実務を終え、順調にいけば今年の7月にも公認会計士としての認可が下りる。資格を取ったあかつきには、やりたいことがある。

 「プロスポーツ選手のセカンドキャリアをサポートしたい。現役時代に資産形成をして、引退後は社会で活躍できるよう、選択肢をたくさん用意したい」

 引退後のキャリアを充実させるためには、現役時代にいかに競技以外のことに目を向けられるかが鍵だという。

 「デュアルキャリアです。アスリート以外の側面も同時に育成すべきなのです。僕の場合、たまたま高校時代に簿記をやっていたから、会計士という選択肢が手に入った。プロになってからより、むしろ、プロになる前。そこで、いかに多くの世界に触れられるかが、競技を辞めた後に生きてくる」

 キッカケはなんでもいいと、奥村は語る。

 「『奥村さんみたいな人がいるから、安心して野球を続けられる』と言う現役選手が1人でも増えればいい。そういう前例を、僕はつくりたい」

 味わった地獄は、一度ではない。戦力外通告、友人の死、昼も夜もなかったバイトの日々、三振。紆余曲折を経て、気がつけば前人未到の領域に立っている。これからの一歩一歩は、まさに前例をつくっていく歩みとなる。

 「これからの選手に、僕のようなキャリアを二度と踏ませない」

 言葉は力強い。しかし、表情はあくまで爽やかである。この表情がつくられるまでにかかった歳月が長いのか短いのか。奥村の今後の活躍が、それを決めるのだろう。(文中敬称略)

  
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◆Wedge2017年6月号より

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