シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年4月19日

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湯之上隆 (ゆのがみ・たかし)

微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を修了後、日立製作所に入社。以後16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センタ、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士授与。現在、半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリスト。微細加工研究所所長。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)など。

③1993年に富士通と米AMDの合弁会社として設立されたスパンションは、SONOSを用いたNORフラッシュを開発し、これをMirror Bittと名づけた。その動作を以下に示す(図2)。

「0」の状態: SiNの欠陥準位には電荷が無い。
「1」の状態: ソースからドレインに電子が流れ、ドレイン付近で発生したエネルギーの高い電子(ホットキャリア)がSiNに注入され、これが欠陥準位に捕獲される。
「2」の状態: ソースとドレインの電位を逆転させて電子を流すと、「1」で書きこんだ場所とは異なる場所にホットキャリアが注入され、これが欠陥準位に捕獲される。


 「1」と「2」で捕獲された電子の位置が中心軸を挟んで対称な位置にあることが、Mirror Bitの名前の由来だ。「2値メモリ」として機能するMirror Bitは、スパンションがXMCに生産委託して量産され、ソフトウエアなどを格納するNORフラッシュとして使われている。

④SiNの欠陥準位に電荷を捕獲する技術を、2008年ごろサムスン電子がNANDに応用した。つまり、スパンションの技術をサムスン電子がパクった。この背景には次のような事情があった(図3)。

 それまでNANDは、フローティングゲート(FG)方式が主流だった。FGでは、SiO2にサンドイッチされたPolySi膜に電荷を捕獲することによってメモリ動作していたが、この方式では、層間絶縁膜やトンネル絶縁膜を薄くすることが困難になった。その結果、NANDを微細化していくと、隣のメモリセルの間の容量結合が大きくなり、セル間の情報が干渉し合うクロストークと呼ばれる現象が起き始めた。

 クロストークを起こさないようにするためには、絶縁膜を薄膜化するしかない。そのためには、PolySiに電荷を蓄えるFG方式以外に切り替える必要があった。そこで浮上したのが、スパンションがMirror Bitに採用しているSiNの結晶欠陥に電荷を蓄えるチャージトラップ(CT)方式だった。

 スパンションは技術を盗まれたことに気付き、2009年にサムスン電子を提訴した。サムスン電子は実質的に敗訴し、和解金7000万ドルを支払うとともに、フラッシュメモリの技術についてクロスライセンス契約を結ぶことになった。こうして、スパンションはサムスン電子のNAND技術を無償で使用できることになった。

⑤サムスン電子は、スパンションのMirror Bitの技術を応用し、MONOSと呼ばれる構造のNANDを開発した。

⑥サムスン電子は、MONOSを基本技術として、3次元NAND(V-NANDと呼ぶ)を開発し、2016年から中国の西安工場で量産を開始した。

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