オトナの教養 週末の一冊

2017年4月29日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

Q 米中関係を追いかけてきた松尾さんにとって「アメリカと中国」の位置づけは。

まつお・ふみお 1933年生まれ。学習院大学卒業、56年に共同通信社に入社、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員、バンコク支局長、共同通信マーケッツ社長などを歴任。2002年5月からフリージャーナリストとして活躍、長年にわたり訴えてきた米大統領の広島と日本の首相による真珠湾の相互訪問が、昨年実現した。さらに「アメリカと中国」の出版など、一連の執筆活動が評価されて、5月に公益社団法人日本記者クラブから2017年度の「日本記者クラブ賞」を受賞する

A 私の中には少年時代に戦争を体験したこともあり、太平洋戦争を引きずっている「最後の男」だという意識がある。日本をやっつけた米国を知りたいということで米国取材を続けてきたが、今後も米中関係は注視していきたい。『アメリカと中国』は、04年に出した『銃を持つ民主主義―『アメリカという国』のなりたち』、09年の『オバマ大統領がヒロシマに献花する日』と合わせたアメリカについての3部作だと思っている。

 昨年は長年、訴えてきた米国の現職大統領のヒロシマ訪問が実現し、安倍首相も真珠湾を慰霊訪問した。これにより、日米の「トゲ」は取れたが、中国と韓国の「トゲ」は取れていない。その意味でも、日本はアジア外交を頑張ってもらいたい。有り難いことに、「アメリカと中国」は韓国や中国でも話題になっているようで、韓国語での翻訳出版も決まり、うれしい。中国語の翻訳出版の可能性もある。

Q 「第6章『特別な関係』と差別の時代」の部分が、米中関係が18世紀末から貿易拡大を通して関係を深めていったことが史料に基づいて興味深く書かれている。日本がようやく明治維新を迎えた1868年にはカリフォルニアで相当数の中国人移民が差別を受けながら黙々と働いていたというのも、ほとんど知られていないことだ。

A 米国は宣教師による布教活動をしながら留学生受け入れなど、中国人に対する友好的な姿勢を示す反面、多くの中国人労働者の手によって建設された大陸横断鉄道の開通式には中国人労働者が呼ばれなかったなど、「人種差別」姿勢が時として現れることもきちんと書いておきたかった。まさに米国の実利主義が頭をもたげた一つの事例だと思う。

Q 著書で分析された米中関係は、いまの中国の習近平国家主席、トランプ米大統領との関係にも通じるものがあるか。

A 米国が独立する前の1750年代から米中の関係をリサーチしたが、米中はそのころから独特の関係で結ばれているという感じがする。米国が独立する1783年より前から米中の貿易取引があり、米国産の朝鮮ニンジンが米国に大量輸出されるなど、米中のビジネスはこのころから始まっていた。中国を共産主義国家に導いた毛沢東も1900年に起きた義和団事件で米国と「赤い糸」で結ばれていた。その後も米中の関係は、じわじわと積み重ねられている。明治に入った1871年の岩倉具視使節団でようやく交流が始まった日米関係と比較すると、米中よりも約100年遅く、歴史的な厚みが全く異なる。

 4月に行われた米中首脳会談で、トランプ大統領の孫娘が習近平国家主席の前で中国語の歌を披露したのは有名だが、いま、米国のエリートたちの子供は中国語を勉強するのが流行になっている。これは米国の上流階級が大国となった中国に注目している証拠だろう。米国人は商人魂があるから、日本人が想像つかないことをやってのける。トランプ政権と習近平主席との関係もそういう視点で見ておく必要がある。トランプ大統領がどういう大統領なのかまだ分からないが、「第二のニクソン」になる可能性もあるので要注意だ。

 ジャーナリストとして多くの中国人と交流してきたが、「米国のワシントンに勤務した経験がある」と話すと、私に対する態度が変わるのを何度も経験した。中国人は米国に対する憧れのようなものが根っこにあるのかもしれない。

 米国と中国は似ているところがいくつもある。広大な土地、多民族国家で、両国民共に世界の中心にある国だと思っており、国民性も似通ったところがある。 

  
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