百年レストラン 「ひととき」より

2017年6月6日

»著者プロフィール
閉じる

菊地武顕 (きくち・たけあき)

1962年、宮城県生まれ。編集者・記者。「E
mma」「女性自身」「週刊文春」「週刊朝日」と、25年以上にわたって週刊誌編集部で働く。著書に『あのメニューが生まれた店』(平凡社)。編書に「日本全国 おいしいものお取り寄せ」(文春文庫)。

 

店の南東100メートル余りのところに、業者が軒を並べる「牡蠣打ち通り」がある。毎朝、仕入先から牡蠣を持って坂道を駆け上がる。多いときには、8キロもの牡蠣を運ぶことも

地元養殖業者が専用の牡蠣を作る

 以来30年間、山口さんは突っ走ってきた。その情熱の源は、 「ここでやることの面白さ、ということに尽きると思います。高台にある公園の中の一軒家。静かな環境で、自然の中でやっている。それが、ほかにはない魅力です」

 とはいえこの場所は、市中心部から遠いという欠点もある。そのため、〝わざわざ〟足を運んでもらうための努力が必要だ。その努力を続けることも含めて、「ほかにはない魅力」なのだという。

 料理は奇をてらわず、身近な食材の美味さを引き出すことに力を注いでいる。

 
大ぶりの牡蠣の身を丁寧に洗い雑味を取る(上)、オイスターヴァリエ。右から時計回りにチーズ、チリ、カクテルソース+ベーコン、ガーリックバター、エスカルゴバター(下)

 「瀬戸内の魚を洋風の技術を使って仕上げることで、『こんなに美味しい料理があるんだ』と思ってもらえれば。名物のオイスターヴァリエは、5個の牡蠣それぞれに違ったソースをのせてオーブンで焼くことで、普段食べている牡蠣とは違う味を出します。大粒でミルキーな広島らしい牡蠣を育てる米田海産さん1本に絞って仕入れています。米田さんは、こちらの意向を汲んだ専用の牡蠣を作ってくれています。しっかり火を入れても身が縮まないんですよ」

 肉は、東北地方のものを中心に仕入れるようにしている。これには訳がある。

 全徳さんの息子で、現在のオーナーである有徳さんは、東日本大震災後に仙台に移り住み、東北復興の願いも込めてレストランを開いた。「海鮮ビストロ・ヤマライ一番町」といい、宮城の牡蠣を用いたオイスターヴァリエを提供している。山口さんもしばしば仙台を訪ね、東北の食材に触れた。肉の質が高いことを知り、復興支援のため用いている。

 山口さんはまだ54歳だが、既にシェフの座を後進に譲りサポート役に徹している。また、広島酔心(すいしん)調理製菓専門学校で特任講師を務め、若い世代を育てている。実は厨房スタッフは全員、学校の教え子たち。

 激しい情熱と柔和さとを備えた山口さんの薫陶を受けたスタッフが、「総合力」を支えているのだ。

写真・伊藤千晴

●シェ ・ ヤマライ
<所在地>広島県広島市中区江波南1−40−2
(広島電鉄江波線江波駅から徒歩15分)
<営業時間>12時~14時30分(14時ラストオーダー)、17時30分~22時(21時30分ラストオーダー)
<定休日>火曜
<問い合わせ先>☎082(294)1200

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆「ひととき」2017年4月号より

関連記事

新着記事

»もっと見る