2024年4月20日(土)

シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年5月9日

習近平国家主席の半導体強化策

 現在、中国の人口は13億人を超え、国内総生産(GDP)は日本を抜いて2位の経済大国となった。中国は、「世界の工場」であるとともに、「世界の市場」になった。したがって、中国の半導体需要は、今後も、拡大し続けるだろう。

 「中国人の半導体技術者が育たず、定着しない」という状態が続いている限り、ファンドリーやメモリの成長は困難であり、半導体の自給率の向上は期待できない。

 そこで、2014年6月、習近平国家主席は、半導体新興を目指す「国家IC産業発展推進ガイドライン」を制定した。そして、2015年の半導体売上高を2013年比で4割増大させ、2030年までに世界トップクラスの企業を複数育成することを国家目標とした。さらに、2兆円規模の「中国IC産業ファンド」を設立し、半導体分野に投資することにした。そして、このICファンドは現在18兆円に増額された。

紫光集団による世界半導体企業“爆買い”作戦とその行方

 習近平国家主席によって設立された18兆円ものICファンドを財源として2015年、中国企業が、世界半導体企業を“爆買い”に打って出た(表1)。

 特に、紫光集団による“爆買い”攻勢は凄まじかった。5月に米ヒューレットパッカードの子会社H3Cテクノロジーズを55憶で買収したのを皮切りに、7月には米マイクロンに対して230億ドルで買収を持ちかけ、10月に東芝と共同でNANDを製造している米サンディスクを買収する予定の米ウエスタンデジタルの15%株式買収を目指し、11月に台湾の力成科技の25%株式を194億台湾ドルで買収し、ファブレス大手のメディアテックに株式買収を持ちかけ、世界最大のファンドリーである台湾TSMCに300億ドルで25%株式買収を提案した。12月には、インフィニオンから独立したDRAM設計会社のシノチップを729億円で買収しようとし、台湾の後工程メーカーSPILと南茂科技の25%株式を2550憶円で買収しようとした。

 紫光集団の趙偉国董事長は、今後5年間で約5.6兆円を投じ、世界半導体業界において、1位インテル、2位サムスン電子に次ぐ3位になると公言した(日経新聞2015年12月21日)。

 中国では「半導体技術者が育たず、定着しない」ため、半導体技術者と工場を丸ごと買ってしまう“爆買い”作戦は、実に効果的な手段であった。したがって、この勢いで行くと、本当に紫光集団がインテルやサムスン電子に匹敵する半導体メーカーになるかもしれないと思われた。

 ところが、その“爆買い”に米司法省が待ったをかけた。その結果、米WDの15%株式買収と米マイクロンの買収は失敗に終わった。また、台湾では中国と距離を置く民進党が政権に復帰したためTSMCやメディアテックなどの株式買収を断念せざるを得ない状況になった。

 結局、カネにものを言わせた“爆買い”作戦は、頓挫してしまった。


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