シリーズ「待機児童はなぜ減らないのか?」

2017年5月19日

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小林美希 (こばやし・みき)

労働経済ジャーナリスト

1975年生まれ。株式新聞社、毎日新聞エコノミスト編集部を経て2007年2月からフリーのジャーナリスト。「ルポ看護の質〜患者の命は守られるのか」「夫に死んでほしい妻たち」(朝日新書)、(岩波新書)「ルポ保育崩壊」(岩波新書)と「ルポ母子家庭」(ちくま新書)「ルポ“正社員”の若者たち」(岩波書店)、「看護崩壊」(アスキー新書)、「ルポ職場流産」(岩波書店)、「ルポ産ませない社会」(河出書房新社)など

 厚生労働省の保育課がまとめた2016年4月1日時点での「申込者の状況」によれば、「特定の保育園等のみ希望している者」は、全国で3万5985人となっており、待機児童にはカウントされていないことが少なくない。ただ、ブラック保育所が散在する今、不安を感じた保育所に入れないための抵抗手段として、良いと思えた保育所しか申請希望を出せない保護者の実情が少なからずあることを忘れてはならない。

 待機児童問題が大きくクローズアップされて約4年が経った。大きな転機となったのは、2013年の春。東京都杉並区で赤ちゃんを抱えた母親たちが路上に出て区役所を取り囲み、待機児童の問題を訴え、マスコミが「杉並母親の一揆」と大きく取り上げた。これまで待機児童になっても泣き寝入りしてきた保護者たちがSNSなどを通じて声を挙げ始め連帯し、集会を開いて現状を訴えると、待機児童問題は国家問題に発展していった。そして、保護者たちは、1年頃前から保育の質にも改めて目を向けるようになった。

保育園の数は増えたけれど……

 「認可保育園を増やして」という切実な要望が社会に認められ、保育士の配置基準など国や自治体の管理下にない認可外保育所で事故が多いことは統計が現している。内閣府「教育・保育施設等における事故報告集計」によれば、2015年の保育所や認定こども園などでの死亡事故は14件。そのうち、認可外保育所での死亡事故が9件に上った。保育施設での死亡事故は決して起きてはならないことだ。その一方で、認可保育所でも、負傷等による意識不明が6件、骨折が266件もあった(認可外はそれぞれ、0件と2件)。今や認可保育所だからといって重篤な事故が起こらない万全の体制があるとは限らない状態。さらに、ニュースになりにくいことで社会から見逃されがちな問題も頻発している。事故一歩手前、虐待寸前、虐待に近い保育状況が日常のなかにある。

 保護者の信頼を損ねる不正も起きている。2015年から16年にかけては、兵庫県芦屋市に本部をおき、認可保育所など全国展開する社会福祉法人夢工房による補助金の不正流用が発覚した。第三者委員会が設置され徹底調査が行われると、約5年間に約1億4000万円もの不正流用があり、経営者の一族が私的に流用したと分かった。最近では、兵庫県姫路市にある、認定こども園の「わんずまざー保育園」が2017年4月、全国初の認可取り消しとなった。主な理由は、定員を1.5倍も超えた幼児の受け入れ、満足な食事を提供しなかった、冷暖房も適切に使われなかった、保育士など職員の配置の偽装を行った――など。そして、保育士の労働も劣悪なものだったという。

 待機児童対策が緊急課題となって、急ピッチに保育所を増やすあまり「安心して預けられる保育所」の存在がいかに乏しくなっているか。これも、待機児童を増やす一因とは言えないだろうか。連載の第1回から待機児童が減らない理由について記してきたが、これらの問題も見落とさずに対応を考えていかなければ、真の待機児童対策にはならないのではないだろうか。

 

  
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