2024年4月20日(土)

シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年5月18日

 前節で紹介した通り、3月13日に、革新機構の志賀会長が東洋経済のインタビューで、「産業革新機構は産業競争力強化法という法律に基づき設置されており、成長事業にしか投資できない」、「少なくとも私が会長兼CEOをやっている限りは、そんな都合のいいお財布にはならない」と東芝メモリの買収を完全否定した(東洋経済)。

 3月14日に、菅義偉官房長官は、東芝の経営再建について「支援策を政府として検討している事実はない」と語った(日経新聞)。

 ところが、3月17日に世耕経産相が渡米して米商務省長官及びエネルギー省長官と会談した直後から、革新機構及び政策銀が東芝メモリの買収に急浮上してきた

 世耕経産相も、革新機構の志賀会長も、菅官房長官も、大嘘つきである。

中央大学教授の竹内氏の意見

 東芝メモリを政策銀や各機構に買収して欲しいという意見を言う人が他にもいる。東芝出身で、中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授の竹内健氏は、3月18日の『東芝のフラッシュメモリ事業をアメリカ企業に買ってもらい 「日米連合」という幻想』というタイトルの記事の中で、以下のように述べている。

 「(東芝のNANDは)これだけの高収益事業、しかも日本が生み出した製品ですので、むざむざと外資系にくれてやるのはもったいない。こういう時こそ、政府系の金融機関、政策投資銀行や産業革新機構の出番ではないか、と主張し続けてきました」。

 筆者は、竹内氏に一目置いてきたのだが、正直言ってこの発言にはガッカリした。

メモリビジネスの本質とは何か

 なぜこれほどまで筆者が、革新機構や政策銀による買収をやめて欲しいと思っているのか? それを理解して頂くには、メモリビジネスの本質を説明する必要がある。

 メモリビジネスには、多分に「バクチ的要素が含まれている」と考えている。それはどういうことか?筆者はバクチをやったことはないが、概ね次のようなものだと想像している。

 バカラでもポーカーでも、ディーラーがいて参加者がいる。それらが競争相手(敵)と言うことになる。参加者は、敵に勝つために、
①ディーラーや他の参加者を注意深く観察する(情報を収集する)
②その観察を基に自分が置かれている状況を客観的に分析する
③その上でもっとも勝つ確率が高いと思われる一手に懸ける決断をする、というプロセスを経て勝負を行っていると推察する
最後の③は不確定性要素が多い中での決断であるため、勇気もいるだろうし、勝つこともあれば負けることもある。

 一方、メモリビジネスでは、例えばサムスン電子は筆者の知る限りでは、
①2005年時点でDRAMとNANDのメモリ事業部1万3千人のうち専任マーケッター230人が世界中に配置されていて情報収集を行っていた
②そこから収集された情報を100人規模の未来戦略室が分析していた
③その分析結果を基に李健煕会長が自宅に閉じこもって例えば1週間にも及ぶ長考を行い、いつ、どこに、どれだけ巨額の投資をするかを決断していた
この決断を行う段階では、不確定性要素も多く、当たることもあれば外れることもあったと思うが、サムスン電子の勝率は極めて高く、その結果、サムスン電子はDRAMでもNANDでも日本を抜き去ってチャンピオンになった(尚、李健煕会長は、2014年5月10日の夜、急性心筋梗塞で意識不明となり病院に搬送され、それ以降意識不明となっている)。

 このようなプロセスを見てみると、バクチとメモリビジネスには類似性があり、したがって、多分に「メモリビジネスにはバクチ的な要素がある」と筆者は考えている。


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