韓国の「読み方」

2017年5月10日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

 保守派の中には北朝鮮に融和的なイメージを嫌う人たちもいる。保守派でも北朝鮮との対話を否定する人はごく少数だが、金大中・盧武鉉政権の太陽政策はやり過ぎだったという反発がある。韓国社会における北朝鮮に対する脅威認識は非常に低くなっているが、それでも北朝鮮への姿勢を問題にする有権者は一定の割合で存在している。

 だから、前々回のコラムで紹介したように、4月半ばまでの選挙情勢は「文在寅に勝てそうな候補」への期待感が大きな要素になった。ただ、そうした期待から保守や中道の支持を集めた安哲秀氏(国民の党)はテレビ討論で失点を重ねて失速した。結局、「文在寅に勝てそうだから」という消極的な理由で安氏支持に回っていた保守派は、文氏への痛烈な批判を繰り返した洪準杓氏(自由韓国党=旧セヌリ党)に流れた。

陣営幹部が「文政権になったら極右保守派を壊滅させる」

 文氏は4月初めに党内予備選を制した後、それまで強調していた「積弊の清算」という主張を前面に出さなくなった。「積弊」とは、保守政権下での政経癒着などを指す。本選挙で支持の幅を広げるための戦略だったのだろう。

 4月中旬に中央選挙管理委員会に提出した「10大公約」では、公共部門を中心に81万人の雇用を新たに生み出すという雇用政策が「公約順位1」とされた。若者の深刻な就職難やリストラされた中高年の増加、社会保障が不十分なために働かざるを得ない高齢者といった社会問題への対応は、韓国社会の大きな関心事である。

 そして「公約順位2」が「政治権力と権力機関の改革」で、ここに「李明博、朴槿恵政権の9年間の積弊の清算」が含まれていた。「積弊の清算」を忘れたわけではないが、少し後ろに下げたということだろう。

 ところが、文氏を脅かしていた安氏の支持率が急落し、楽勝ムードが漂ってきた4月28日に党が発刊した公約集では「積弊の清算」が一番先に掲げられていた。30日には文陣営の共同選対本部長である李海瓚元首相が遊説で「選挙はもう終わったようだ」と軽口をたたきながら、文在寅政権になったら「極右保守勢力が再びこの国を壟断できないよう徹底的に壊滅しなければならない」と主張した。

 「極右保守勢力」と攻撃された形の洪氏は、文氏が朴槿恵退陣を要求したロウソク集会で「エセ保守はたいまつで燃やしてしまえ」と発言していたことを持ち出して「カンボジアのような『キリングフィールド』を作ろうというのか」と反撃。選挙戦最終日の遊説では、「選挙ではなく、体制選択の戦争だ。この国、この民族を親北左派に渡すのか、自由主義大韓民国勢力に渡すのかだ」とボルテージを上げた。

 文氏が予備選を制した時の演説で強調した「分裂と対決の構図から抜け出さなければならない」という訴えは、完全に色あせてしまった。最終的には保守と進歩が激しい言葉をぶつけ合う、韓国の選挙では見慣れた光景が繰り返されたのである。

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