世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年5月18日

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 憲法改正によって、トルコの議院内閣制は大統領制に置き換えられます。首相の職は無くなり、権限は大統領に集中します。大統領は法律の効果を持つ制令を行う権限、議会の解散権、閣僚の任命権を持つことになります。議会の行政の監督権限は弱くなります。大統領によって差し戻された法律を再可決するハードルは高くなります。大統領に対する弾劾手続きは複雑になります。

 かくして議会のチェック・アンド・バランスの権能は損なわれることになります。従って、大統領はスルタンであり、議会はスルタンにお追従を並べる取り巻きとなるのです。司法権はといえば、裁判官・検察官最高評議会および憲法裁判所の人事は従来通り大統領と議会が握りますが、大統領のグリップが強まります。エルドアンと与党AKP(議会の議席550のうち317を握る)の存在を前提とすれば、司法権は大統領の影響下に置かれることになります。かくして司法権の独立性に大きな疑問符が付きます。

少なくとも2029年まで大統領であり続ける

 昨年7月のクーデター未遂事件以来、エルドアンは権威主義的統治を手荒に進めていますが、憲法改正は彼の権威主義的支配を固めることになります。もちろん、憲法改正はエルドアンとAKPが勝ち続けることを前提にしなければ意味をなしませんが、この前提は(国民投票では51.4%の支持しか得られなかったものの)目下のところ崩れそうにありません。エルドアンといえども、選挙に勝つ必要がありますが、彼は少なくとも2029年まで大統領であり続けることが可能になります。欧米メディアの憲法改正非難の合唱は、憲法改正そのものもさることながら、エルドアンという人間の強権政治に対する嫌悪感によるものでしょう。

 そういうトルコとの関係をどうするかは、欧州にとって悩ましい問題に違いありません。この社説は、欧州はトルコとの関係を作り直す方途を見出さねばならないと言いますが、明快に整理することは出来ないでしょう。トルコはNATO加盟国です。シリア問題の重要なプレーヤーでもあります。EUにとっては難民流入の防波堤になって貰っているという事情もあります。トルコのEU加盟の希望の火が消えたことは確かです。トルコが加盟を真剣に望んだ時期もありました が、加盟交渉プロセスは大体において虚構であり、実現に近づいたことは一度もありません。

 希望の火が消えたことをEUが宣言するようには思えません。エルドアンは死刑の復活(EU加盟を目指すために2004年に廃止)、あるいはEU加盟の是非を問う国民投票を示唆しているので、トルコがイニシアティブを取る可能性はあるでしょう。かねて検討の俎上にあるEU・トルコ関税同盟の拡大(製品のみならず、サービス、農産品、政府調達を対象とする)を今後のトルコとの関係の1つの拠り所とするというアイディアがあるようであるが、現下の状況でこういう構想が進展するようにも思えません。

  
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