世界の記述

2017年5月25日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 1959年に結成したスペイン北部バスク地方の分離独立派武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)が先月8日、完全武装解除を行い、58年間にわたる活動に終止符を打った。国内に歓喜と安堵の声が溢れたが、果たしてこの問題は本当に終わったのか。

 ETAが事実上のテロ活動を行った43年間、死者の数は800人を超えた。政治家、警察、弁護士、大学教授らが銃殺や車爆弾の標的となった。独立に反対する有識者らは、テロの犠牲になってしかり─ETAは、そのための手段を選ばなかった。

 起源不明のバスク語を公用語とするバスク自治州は、スペインでも独特の文化や価値観を持ち、中央政府からの分離・独立を訴えてきた。しかし、政府間交渉が実現したことはなく、一方的な言動を貫いた。

 2011年に停戦を発表したETAが、先月7日、「すべての武器と爆発物をバスク市民社会の代表に明け渡した後、ETAは非武装組織となる」と英BBC放送に宛てた書簡で表明。ひとつの歴史に終わりを告げた。

 だが、元スペイン内相で、武装組織との交渉拒否を貫いたハイメ・マジョル・オレハ氏は、「武装解除は馬鹿げた芝居」と批判し「ETAの敗北は嘘で、中央政府を破滅に陥れているのだ」と語る。

 一方、バスク地方のビルバオで生まれ育った男性、ホセ・ルイスさん(55)は、今回の武装解除について、懐疑的な見方を示している。

 「われわれは、独立のために闘い続けてきたバスク人だ。汚職だらけの中央政権に頼らず、独自の力で生きていくべき。ETAは活動を続けるだろう」

 ETAの組織図は特殊だった。家族内でも、テロ活動に手を染めている人物を判断できず、伴侶や子供が逮捕されることもあった。現在、約370人が政治犯として監獄生活を強いられるが、大半のバスク市民は彼らの釈放を訴えている。

大半のバスク市民は、逮捕されたETA構成員の釈放を訴えている(写真・YOICHI MIYASHITA)

 首都・マドリードで04年に発生した、国際テロ組織「アルカイダ」による列車同時多発テロ(死者191人)以来、ETAの転換期が訪れる。スペインにおいて、地方独立よりも国防問題に課題が移っていく。ETAは、独立活動における支持者の減少や、経済危機による資金源不足などに悩まされ、存続意義を失っていった。

 血なまぐさい過去の記憶が薄い、バスク地方・ビトリア出身の女性、イラチェ・ウルティアさん(29)は、今回の武装解除に好意的な考えを示した。

 「バスク人にとっては、むしろ朗報だと思います。母はETAに反対ですが、父はテロを行ってでも独立すべきという強い考えを持っています。それでも、私は、平和が一番だと信じています」  

 武力行使を続けることが独立のためなのか。独立を拒んででも平和の道を選ぶべきなのか。バスク地方には、今も肉親を囚人に持つ人々や、テロ活動を支持する独立派が多く潜んでいる。ETA問題が解決したのかは、誰も理解できないのが現状だ。

  
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◆Wedge2017年6月号より

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