2024年4月20日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2017年5月28日

何人に対してもサービス提供を拒否する権利

 米国中西部をドライブしているとほとんどのレストラン、モーテルなどの入口には「当店は何人に対してもサービスを提供することを拒否する権利を留保しています」(We reserve the right to refuse service to anyone)と書かれた小さなプレートが掲げられている。

1930年代であろうか。ハーレーダビッドソンのディーラー前での警察官の集合写真

 つまり恣意的に来客に対して食事提供や宿泊を拒否する権利を有すると宣言しているのである。米国では当然のことながら人種、国籍、信条、宗教、外見、性別などを理由に差別(discrimination)することは法律条例で禁じられており公教育でも差別厳禁は徹底されている。

カリフォルニア南部の砂漠地帯の19世紀の刑務所。過酷な懲役作業だったようだ

 店の人などにこのプレートを掲示している意義を聞いてみたが、曖昧に言葉を濁していた。帰国後に気になって米国法に詳しい国際弁護士の旧友に照会したところ、「このプレートを掲示していてもサービスを断られた客が訴えたら店側は敗訴する可能性があるので法律的な効力は保証できない」との回答。

 旧友に送ってもらった事例は興味深いものであった。1994年に外食産業大手のデニーズが黒人顧客の集団訴訟に対して5400万ドルを和解金として支払うことで合意。2006年にもCracker Barrelという外食チェーンが黒人への差別的対応で訴えられている。2015年には男性のゲイカップルが注文したウェディングケーキを断ったとしてベーカリーに対して当局が13万5000ドルの罰金を命じている。この罰金命令には賛否両論あり物議を醸しているようだ。

 多様化社会の米国における“差別禁止”という原則とおかしな連中によって営業に悪影響が出ることを避けるために客を選別できる“経営の自由裁量権”という原則は真っ向から対立する。相反するふたつの原則論がこの小さなプレートの背景にあるようだ。

 欧米民主主義の基本理念は自由平等と今まで何の疑いもなく単純素朴に考えてきたが、自由と平等が簡単には両立しないのが現代米国民主主義の深刻な現実ではないか。そしてトランプ氏によりいっそう深刻化してゆくと懸念する。

⇒(第11回に続く)

  
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