坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2017年6月7日

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坂本幸雄 (さかもと・ゆきお)

サイノキングテクノロジーCEO、元エルピーダメモリ社長

日本体育大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツに入社し、93年副社長。神戸製鋼所、日本ファウンドリー社長を経て、02年エルピーダメモリ社長。現在サイノキングテクノロジーCEO。

 ノービジョンのリーダーが率いる組織は衰退する。当たり前の話だが、多くの日本企業は笑えないのではなかろうか。

 社会に必要とされ、競争力のある企業をつくるのに、ビジョンは欠かせない。どういう会社にしたいのか、何のためにどんな製品やサービスをつくり、どのように世の中を変えたいのか。大きなビジョンや目的を定めることから事業活動は始まる。ビジョンは会社の憲法のようなものだ。

 ビジョンの必要性は、テキサス・インスツルメンツ時代に学んだ。創業者が「OSTを意識せよ」と言っていたが、これはObjective(目的)、Strategy(戦略、どんな会社にしていきたいのか?)、Tactics(戦術、それを達成するために必要なアクション)のことを指す。なかでも重要なのは目的、ビジョンだ。

 迷走を続ける東芝などの大企業だけでなく、ベンチャーの旗手としてもてはやされていたDeNAも「肩こりの原因は幽霊」といった記事などが掲載されていた医療キュレーションサイト運営で批判を浴びたが、まともなビジョンや目的がないとこうした事態に陥りやすい。「ただ儲かればよい」という安易な考えではいつか足元をすくわれる。

(写真・BrianAJackson/Thinkstock)

 私はエルピーダメモリのCEOに就任後、週に一度、部長以上の役職の従業員約30人を集め、企業理念を決めるべく侃侃諤々(かんかんがくがく)の議論を行った。

 随分と単価の高い会議だが、会社と従業員が目指すべき方向性を決める会議なので、費用対効果は低くない。実際、ビジョン策定前の2002年には1・9%だったDRAMの世界シェアが、07年には19・9%にまで上昇した。

 企業理念は「エルピーダメモリは最先端、高機能、高性能DRAMを提供することにより、デジタル情報化社会に貢献し、高い収益性を有する世界ナンバーワンのDRAMソリューションカンパニーを目指す」というシンプルなものに落ち着いた。長いと誰も覚えないので、意味がない。

 従業員に企業理念を浸透させ、この理念に沿って行動するように、私を含めて全従業員がeメールを発信するときは、送り相手の氏名とメール本文の間に、必ずこの企業理念を入れるようにした。これは送り先の相手が社内であろうと、取引先であろうと、競合企業であろうと徹底した。

 私自身、「世界ナンバーワンのDRAMソリューションカンパニーを目指す」ために行動した。世界シェアの小さな日本企業ではなく、アップル、サムスン、ノキア、HTCといった携帯電話・スマホ市場で大きなシェアをもつ企業にプレゼンを繰り返し、受注を勝ち取ることができた。アップルには「三顧の礼」ならぬ「三十顧の礼」ぐらいかけて何とか口説いた(笑)。

 開発現場でもエース級の人材を最先端、高機能、高性能DRAMの開発に充てるなど、全社を挙げて目標に向かって努力した。

 読者の皆さんもいま一度、ビジョンや目的を見直してみてはいかがだろうか。

  
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◆Wedge2017年6月号より

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