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2017年5月24日

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ドミニク・カシアーニBBC国内担当編集委員

22日夜にマンチェスターで起きたたぐいの爆弾攻撃を、英国は2005年7月のロンドン攻撃以来、経験していない。単純な理由が3つある。

  1. 爆弾攻撃にはある程度の経験と技術が必要で、他人の手助けがないとどちらも習得しにくい
  2. かなりの計画と準備が必要で、計画と準備を重ねると英情報局保安部(MI5)その他の治安機関に気づかれやすくなる
  3. 経験、技術、計画、準備をひとつにまとめあげる能力を備え、かつ計画を遂行して悲惨な結末に到達できる人物は、非常に珍しい

10年以上前からBBC内務ユニットは、情報が公になったすべてのテロ事件(実行したか未遂かを問わず)をモニターしてきた。

こうした事件の関係者が次々と法廷に出てくる様子を、私たちはずっと観察してきた。ごく単純に言えば、そうして法廷に引っ張り出されるほとんどの人間に、今回のような事件の実行は無理だ。

出廷する者の多くは「殉教」したいと主張し、爆弾を作るのがどうのと話す。

しかし、ほとんどの者は自分たちの妄想を現実にする能力をもたない。あからさまに言うなら、頭が悪すぎるか、集中力が足りないか、あるいは自分の足跡を隠す方法を知らないため、見つかってしまうのだ。

イスラム聖戦主義者のほとんどは、早い段階で爆弾攻撃を諦める。難しすぎると気づくからだ。

あるいは、爆弾を作っている最中にうっかり事故を起こして自分で自分を殺してしまうかもしれない。

必要な部品や薬品を買っているうちに地元の薬局やオンラインで不審がられ、デジタル生活の内容を英政府通信本部(GCHQ)にじっくり精査されてしまうかもしれない。

誰かに応援を頼んだはいいが、その誰かがすでにMI5の監視下にある可能性もある。

今回の攻撃のちょうど4年前にあたる2013年5月22日に、ロンドン南西部で英陸軍兵士がイスラム過激派に刃物で殺害された事件と同様、テロ攻撃を志す者たちは得てして、爆弾以外の方法を探すものだ。

今では車両や刃物の方が、武器として好まれている。

2014年にもロンドンの男性が、戦没者追悼の日に合わせて刃物を使った攻撃を計画していた。

今年3月にロンドンのウェストミンスター橋と議事堂前で多数を死傷させたハリド・マスード容疑者も、車とナイフを使った。

その一方で、確かに最近のテロ計画では刃物や車両、そして時には銃も使用されるが、今でも人ごみの攻撃には爆弾を使いたい、作りたいと考える人間もいる。

つい最近では、戦没者追悼記念日事件の犯人の弟(19)が、爆弾製造を手伝ってくれる人を探したと訴追され、有罪を認めた。昨年9月11日にロンドンの公園で開かれた米同時多発テロ追悼コンサートで、歌手エルトン・ジョンさんを標的にするつもりだったという。

つまりマンチェスター攻撃に関する大きな謎がここにある。爆弾製造には経験と技術が必要だというなら、22歳のサルマン・アベディ容疑者はいったいどうやって、爆発物を手にしたのか。

事件から一夜明けた23日早朝の時点で、可能性は3つだ。

  • 誰かに作り方を教わった
  • 独学で学んだ
  • 誰かに爆発物を提供された

高度な装置

もしアベディ容疑者が誰かから作り方を教わったなら、この「誰か」とは、シリアやイラクのいわゆる「イスラム国」(IS)支配地域から帰還した人間か、あるいは父親の母国リビアなどイスラム聖戦主義が活発な地域から、英国に戻った人間の可能性がある。

IS戦闘員たちは、日曜大工用の金属ボルトなどを攻撃装置によく使う。そしてマンチェスター・アリーナの現場でも、金属ボルトの破片が目撃されている。

過激派勢力アルカイダとその分派も、こうした装置を使用してきた。IS拠点と比べてアルカイダの訓練キャンプにたどり着くのはかなり大変だが、その可能性は除外すべきでない。

いずれにしても、過激派は高度な装置を使っている。過激派の間で出回る有名な手引書に沿って作ったものは、特に性能が優れている。

作るには、工学の技術が必要だ。爆弾製造の工程を隠すのも、必ずしも簡単ではない。たとえば、2005年7月7日のロンドン連続攻撃の場合、爆弾に使った薬品のせいで犯人の髪が脱色してしまった。製造中に出る煙で、植物が枯れてしまうこともある。

なので、もしアベディ容疑者が独学で学んだとしたら、どうやって秘密を完璧に守りおおせたのか。

アベディ容疑者が本当にすべてを単独で行ったというなら、完全な単独犯の脅威を事前に察知するのがいかに大変かということになる。個人が完全に独りで動き、当局に監視されないよう計画を熟慮し、とことん慎重に動いたならば。

爆弾の作り方をオンラインで調べるのは難しくない。だからと言って、探しにいかないように。持っているだけで違法な情報だ。しかし実際には、ネット上にある爆弾製造の手引きはほとんどが役に立たない。

なので改めて繰り返すと、実行犯は事前にかなりの時間をかけて攻撃の手口を検討し計画したはずだ。となると、完全な単独犯だった可能性が小さくなっていく。

第三のシナリオは最悪のケースだ。英国内で爆弾製造の技術屋が活動していることになるからだ。

しかも、治安当局にまったく気づかれていない誰かが。

当局に気づかれることなく実行犯候補を探り当て、攻撃実施の話をもちかけられるような誰かが。

同じような攻撃を繰り返すかもしれない誰かが。

これはもちろん、非常に気がかりな可能性だ。しかし23日夜の時点で、治安当局幹部はこの可能性を除外できなかった。だからこそ、MI5が発表する公式な「テロ脅威」のレベルを、最高の「危機的」に引き上げるしかなかったのだ。

攻撃が切迫しているかもしれないという意味だ。確かなことは誰も言えない。諜報とは、影の中にうごめくかすかな兆しや疑惑を取り扱う世界なので。

ピースが欠けているジグソーパズルというよりも、印象派の絵のようなものだ。何がどうなっているのか、全体のごく一部しか見えない世界だ。

不可欠な情報

ゆえに捜査当局が探しているのは、実行犯を支援した人間だ。現時点では具体的に誰を探しているのか、分からないままかもしれない。追跡すべき対象が実際にいるのかも、分からない状態だ。

警察は実行犯の身元を把握していた。これは初動段階の大きな突破口だった。2005年の当時は、ロンドン連続攻撃の実行犯を警察が確定できるまでに何日もかかった。

時間の経過と共に、MI5本部のテムズ・ハウスと地方支局では、大掛かりな事後捜査が展開していく。GCHQと、必要に応じて外国の情報機関からの支援を受けながら、MI5の捜査員たちは詳細な犯人像を描き出すため、あらゆる情報の断片も拾い上げては精査をしていく。実行犯本人とその暮らしぶり、そして周辺人物たちを理解するために。

MI5と警察からなる北西部対テロユニットは、実行犯が所有した情報端末を徹底的に調べるはずだ。家宅捜索すべき住所の割り出しも続く。すでに2カ所の捜索は実施された。

南部ケントにある国の鑑識爆発物研究所は、爆発装置の残骸を回収して復元を試みるという、とてつもなく困難な作業に着手する。ここの研究所の科学者たちは、現代に入って回収されたすべての爆発物の残骸について、この作業を繰り返してきた。

研究所の復元作業から、場合によっては不可欠な情報が得られることもある。たとえば製造手順の出所や、技術的な構成などがそうだ。

こうした詳細は、次の手がかりにつながる。たとえば特定の場所にいる特定の集団と、実行犯との関係が割り出せるようになるかもしれない。英軍と米軍は、分析のために海外の爆弾の残骸も回収している。

全体像が浮上するまでには、何カ月もかかるかもしれない。

しかしまず最初に必要なのは、この人殺しが単独犯だったのかどうかの確定だ。単独だったのか、それともどこかにあるセル(テロ組織の小集団)の一部だったのかを、急ぎ割り出さなくてはならない。

(英語記事 Manchester attack: The next steps for police and MI5

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-40025412

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