2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年7月14日

「よく分からない日本人」という本が人気の中国

 中国の指導部・政府と同様に、中国の民衆でも、ころころと首相が交代する日本を「不思議な国」ととらえる見方が出てきた。

 鳩山前首相の退陣2日後の6月4日、日本の政治体制をどう見るか2本の対照的な書き込みが国営新華社通信ネット版『新華網』に並んだ。

 「日本と北朝鮮を比べてどちらが政治的に危険なのか」

 「現代文明政治の表れであり、まさにこれが法治国家だ」

 「GDP逆転」に象徴される日中関係の構造的変化が起こる中、中国民衆の「日本観」も揺れ動き、また変化もしている。北京や上海の書店には『看不懂的日本人』(よく分からない日本人)など「日本論」を扱った書籍が人気だ。

 戦後、中国人の「日本観」はどんなものだったか。日本による侵略という「屈辱の近代史」を抱える中国にとって、屈辱の近代史を克服するということは、日本を近代化で追い越すことを目指すという側面もあったが、乗り越えるために必要な近代化(改革・開放)では日本をモデルにするという複雑な「日本観」を有していた。

 この「劣等」「屈辱」観は経済成長と共に、徐々に「対等」「自信」へと変化している。小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝など歴史認識問題によって深く根付いた「日本不信論」も今や減少し、日本を以前より柔軟に客観視できる土壌も生まれつつある。

「対日客観論」と「中国不可欠論」

 一方、日本国内では1990年代から最近まで中国を見る際に突出していた「中国脅威論」は変容し、日本の経済成長や消費拡大に中国市場や中国人観光客が欠かせないとする「中国不可欠論」も台頭している。

 伊藤忠商事相談役から異例の駐中国大使に起用され、7月末に着任する丹羽宇一郎氏は、国際関係専門誌『国際問題』(2010年4月)でこう「中国論」を披露している。

 「中国ビジネスが初めて盛り上がった1980~90年代においては、日本の経営者は必ず『中国は必要か否か』という問にまず頭を悩ました。いまや、この問こそ『不要』であり、むしろ経営者は『中国から不要だ』と言われないために何をすべきかを、自問自答するようになっている」

 中国における「対日客観論」の芽生えと、日本での「中国不可欠論」の高まりで、民間レベルでは相互理解が深まり、現在も両国において最大のネックである国民感情の向上も期待されている。しかしこれら民間の動きを支える首脳レベルの信頼関係の深化は果たしてどこまで進むのか――。胡指導部は菅・民主党政権の動向を注視している。

※次回の更新は、7月21日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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