2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2010年7月20日

 ただし、ここでいう「安全」は、「リスク分析」という概念でとらえる必要がある。我が国でも、食品の安全性は「リスク分析」という考えに基づいて管理されており、この考え方は国際連合食糧農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)合同専門家会合で生み出されて世界中で採用されているものであるが、リスク評価・リスク管理・リスクコミュ二ケーション(情報交換)の3つの柱から成り立っている。(農林水産省『Step up 遺伝子組換え作物を知るために』より)。食品には「リスク」が存在しており、ある食品を食べたことにより、好ましくないことが起きる確率・可能性について、どれぐらいの量、どれぐらいの期間食べたら、ということを明確にしたうえで、その危険性を評価する。そして、その結果に基づき、安全性を確保するための政策を検討・決定・実施する。さらに、その評価者・行政・消費者・業界・科学者などの情報・意見交換が必要―とする考え方だ。

 遺伝子組換え食品については、遺伝子を組入れる前の食品と組み換えた後にできた食品との間に実質的な差異が無いことを確認したうえで、遺伝子を組み入れたことによって起きるかも知れない項目について綿密な検討によって安全性が確認されたものだけが承認される。リスク分析の考え方が我が国で取り入れられたのは比較的最近のことで、「セミナー等の質問から感じることは、リスク分析の考えは日本人にとって受け入れるにはまだ時間がかかりそうである」(バイテク情報普及会事務局長・福冨文武氏)ということだ。

「リスクゼロ」はありえない

 2つ目は、「アレルギーは大丈夫?」という疑問。これについては、先述の通り安全性の確認がなされているが、当然全世界どの人々にも安全であるという保証はない。しかしそれは従来の品種改良でできた農作物でも同じことが言える。つまりここでも、「リスクゼロはありえない」という考え方を受け入れられるかどうかが、大きな問題となってくる。

 3つ目は遺伝子組換え作物を栽培した際の、周りの環境への影響だ。これについても食品としての安全性同様、国際的な基準に基づき、国内では文部科学省、環境省、農林水産省のチェックが必要とされることとなっている。

 ところが、独立行政法人農業環境技術研究所『情報:農業と環境』12号によると、米国で遺伝子組換えの除草剤耐性大豆を栽培していたところ、使用している農薬に耐性をもった雑草が出てきたそうだ。この農薬を撒くと、除草剤耐性大豆以外の雑草などがすべて枯れる。これによって農家は膨大な手間が省けるという恩恵があったのだが、同じ土地で長期にわたってこの大豆を作り続けたため、農薬に耐性のある雑草が出てきてしまったのだ。しかし、冷静に考えるとこれは遺伝子組換えの問題ではなく、同じ土地で同じ農薬を使い続けたことによって起こった問題。もちろん新たに発生した雑草は無敵なわけでもなく、必ず他の農薬が効く。今後は、機械除草と組み合わせたり、適度な間隔を置いて栽培したりするなどの措置を政府も推奨しているという。

 遺伝子組換え食品は、リスクゼロでもなければ、必要以上に怖がる理由もない。しかし、「それでも食べたくない」という消費者がいるとしたら、避けることは可能なのだろうか。実はそのために、表示義務というものが存在している。

 現在日本で販売が可能な遺伝子組換え作物は、大豆、トウモロコシ、バレイショ、ナタネ、綿実、アルファルファ、てん菜の7種。さらに、これを原料とする加工食品32種には、JAS法及び食品衛生法に基づく表示ルールにより、表示義務が課せられている。


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