シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年6月5日

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湯之上隆 (ゆのがみ・たかし)

微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を修了後、日立製作所に入社。以後16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センタ、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士授与。現在、半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリスト。微細加工研究所所長。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)など。

もはや子供のケンカである

 東芝とWDは、「売り言葉に買い言葉」で殴り合いのケンカを始めてしまった。もはや、両社だけではケンカをやめることができないために、その舞台を国際仲裁裁判所に移すことになったわけだ。

 国際仲裁裁判所とは、日本を含む約130カ国が参加する国際商業会議所の下部組織で、複数の国にまたがるビジネス上の紛争を解決することを目的としている。同裁判所の判断に一方の当事者が従わない場合、もう一方の当事者側は強制執行できるという。

 同裁判で知られる事例として、スズキとフォルクスワーゲンの提携解消を巡る紛争がある。この紛争は、和解までに4年もかかった。つまり本当に裁判になると和解までに少なくても数年かかることになる。しかし、こんな裁判をやっている間に、東芝は債務超過が回避できず上場廃止となり、場合によっては経営破綻してしまうに違いない。

 そんなことより、裁判の結果が出る前に、四日市工場のメモリビジネスは、両社の意向が統一できず、開発も投資も滞り、死に至るだろう(もしかしたら、もう死にはじめているかもしれない)。

 唯一の解決策は、東芝とWDが子供のケンカをやめて、大人の話し合いを行い、早期に和解することである。しかし、現状を見る限り、両社のケンカは泥沼化しており、収束する目途が立っていない。

大規模投資を敢行するサムスン電子

 メモリビジネスとは、ある半導体製造装置メーカーの元会長の言葉を借りれば、「F1レースのような狂気のスピード感覚」の中で、例えば1兆円規模の投資判断を行わなければならない産業である。筆者は、これを「一種のバクチ」と表現した。

 ところが、そのF1レースのようなメモリビジネスの只中で、東芝とWDが子供のケンカを始めてしまった。それを横目で見ている競合他社は、どのような動きに出ているのだろうか?

 「Business Korea」(5月20日)によれば、2017年のサムスン電子の投資額は、昨年より1兆円増額して2.44兆円になる見込みであるという。このうち、筆者の予測では1.4兆円を3次元NANDの投資に使う。これは、東芝メモリ&WDの投資額の5倍以上になるとてつもない金額だ。しかも、関係筋からの情報では、このとてつもない投資を最低4年続けるという。

 東芝とWDのバトルは泥沼化し、東芝メモリの売却先は決まらない。決まっても、投資判断ができない経営陣になる可能性がある。この状況を、サムスン電子が見逃すはずがない。大規模投資を敢行して一気に突き離す戦略に出たのだと思われる。

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