BBC News

2017年6月2日

»著者プロフィール

マット・マグラス環境担当編集委員

米トランプ政権が1日、気候変動対策の国際的枠組み、「パリ協定」から離脱すると発表した。それは世界にとって、どういう意味を持つのだろうか。

1. 米国の離脱は協定と世界に対する打撃

米国が離脱すれば、パリ協定の目標達成は困難になる。それは間違いない。地球の気温上昇を産業革命前と比較して2度上昇より「かなり低く」抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進するというのが、協定の目標だ。

米国は世界の二酸化炭素の約15%を排出する。その一方で、気温上昇や海面上昇、異常気象などと戦う途上国の取り組みを積極的に支援し、資金や技術を提供してきた。

世界の指導者としての道徳的な問題もある。米国が気候変動における指導的立場を放棄したことは、他の外交分野にも影響を与える。

米環境保護団体シエラ・クラブのマイケル・ブルーン氏は協定離脱について、「歴史的な間違いだ」と非難する。「我々の孫の世代は、なぜこんなことになったのかと呆然として、落胆するだろう。いったいどうしたら、世界の指導者がこれほど現実や道徳と無縁でいられたのかと」。

2. 米国の難局は中国にとって絶好の機会

パリ協定の合意を可能にしたのは何より、米中関係だった。バラク・オバマ米大統領(当時)と習近平・中国国家主席はお互い、妥協点を見出すことに成功し、そのおかげで欧州連合(EU)や小島しょ諸国を含むいわゆる「高い野心連合」の形成に成功した。

トランプ政権の発表を受けて中国は速やかに、パリ協定順守の意志をあらためて表明した。二酸化炭素ガス排出削減のためEUとさらに協力体制を強めていくと、近く共同声明で発表する

欧州委員会のミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当委員は、「EUと中国はパリ協定を実施し、クリーンエネルギーへの世界的移行を加速させるため、力を合わせて邁進(まいしん)していく」と表明した。「誰も置き去りにすべきではないが、EUと中国は前進することにした」。

温暖化対策の主要国としては、米国が後退する一方で北米大陸からは今後、カナダとメキシコが存在感を増すことになるだろう。

3. 世界的企業幹部たちは落胆

米経済界も声高に、協定残留を求めていた。グーグル、アップル、化石燃料メーカーのエクソンモービルなど、何百もの企業が大統領に協定に残るよう要請していた。

エクソンモービルのダレン・ウッズ最高経営責任者は自ら大統領に手紙を送り、米国は協定に参加したままでも「十分に競争できる」し、協定に残れば「公平なルール確保のために話し合いの場に参加できる」と力説した。

4. 石炭復活の可能性は低い

米国が石炭を使わなくなるのと同様に、他の先進国でも石炭依存率は下がっている。英国は2025年までに石炭の発電利用をゼロにする。米国の石炭産業で働く人数はすでに、太陽光発電業界の半分に過ぎない。

確かに途上国では今後数十年にわたり、石炭を主要エネルギー源として使い続けるだろう。しかし、大気汚染や公害に怒る世論が、石炭使用の拡大を食い止める。

再生可能エネルギーの価格が急落しているおかげもあり、新興国はむしろ一足飛びに環境負荷の低いエネルギー源に移行しつつある。最近のインドでは、太陽光発電の卸価格は火力発電による平均電気代よりも18%低かった。

5. トランプ政権が離脱しても米国の排出量は減少する

たとえトランプ政権が離脱しても、米国の二酸化炭素排出量は減少する。現在の予想では、オバマ大統領が計画した削減量の約半分は減るものとみられている。米国では現在、石炭よりもガス発電の方が多いからだ。

フラッキング(水圧破砕法)革命によって、天然ガスの生産量は一気に拡大し、値段は急落した。石炭より扱いやすく、同じように急成長している再生可能エネルギーと組み合わせやすいため、エネルギー業者は天然ガスを好んで使っている。

(英語記事 Five effects of US pullout from Paris climate deal

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-40128839

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る