海野素央の Love Trumps Hate

2017年6月5日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 パリ協定離脱の演説の中でトランプ大統領は、「私はパリではなく、ピッツバーグ市民を代表するために選ばれた」と述べ、鉄鋼業で栄えた東部ペンシルべニア州の都市を取り上げました。それに加えて同じく鉄鋼の街として繁栄した中西部オハイオ州ヤングスタウン及び自動車産業のメッカであったミシガン州デトロイトも挙げています。その狙いは、環境保護よりも「雇用ファースト」であるという明確なメッセージをトランプ信者の白人労働者に発信することです。

 確かに選挙で票になる争点は環境保護ではなく、テロと雇用です。しかも、激戦州では特に雇用は不可欠です。

 トランプ大統領がパリを取り上げた背景には、別の理由も存在しています。仏国のエマニュエル・マクロン仏大統領に対する報復です。北大西洋条約機構(NATO)首脳会談の前にトランプ・マクロン両大統領は激しい握手合戦をしています。荒々しく手を上下に振って握手をした後で、トランプ大統領は先に手を放そうとしましたが、マクロン大統領は固く握り続けました。トランプ大統領の右手にしわができているのが確認できます。英BBCニュースは、「2人の指の関節が白くなるのがはたからも見て取れた」と報道しています。

トランプとマクロンのバトル

 トランプ・マクロン両氏の握手に関するバトルをもう一つ紹介しましょう。NATO首脳会談でトランプ大統領は両手を広げてマクロン大統領を歓迎する動作をしたのですが、同大統領はアンゲラ・メルケル独首相に近づきハグを2回したのです。その後、同大統領は2人の首脳と握手をして、やっとトランプ大統領と握手を交わしたのです。

 その際、トランプ大統領はマクロン大統領の右手を引っ張り自分に引き寄せています。それに対抗するためにマクロン大統領は左手でトランプ大統領の右腕を抑えたのです。同大統領はマクロン大統領に対して好印象を持たなかったはずです。

 トランプ大統領の握手には特徴があります。日本はお辞儀の文化なので、日本人は握手がもたらすメッセージについての認識が薄いのです。しかも、同大統領のように交渉・取引を有利に進める手段としてそれを用いるという発想も存在しません。握手を通じて交渉相手と初めて接触します。同大統領は交渉・取引の「入口」を重視しており、1回目の握手で相手に自分の「力」を見せつけて交渉を有利に進めようとするのです。不動産開発事業を通じて習得した知識とスキルなのでしょう。

 演説の中でマクロン大統領はパリ協定離脱を表明したトランプ大統領を皮肉って、「私たちの惑星を再び偉大にしよう」と英語で呼びかけています。結局、トランプ大統領の「私はパリではなく、ピッツバーグ市民を代表するために選ばれた」は、米仏関係に亀裂を入れることになりました。

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