2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2017年6月5日

 しかし、こうした現役世帯家計の厳しい現状をよそに、教育費の公的支出は先進国の中でも最低水準が続いている。OECDによると、2013年の国内総生産に占める公的教育支出の割合は、加盟国平均では4.5%であるのに対して、日本は3.2%で、比較可能な33カ国中、最下位のハンガリー(3.1%)に次ぐ32位となる一方、公的支出に私費負担を合わせた児童生徒1人当たりの教育機関への支出を見ると、OECD平均を上回る結果となっており、教育費全体に占める私費負担の割合が世界的にも高く、子育て中の現役世帯家計にとって教育費は非常に重い負担となっていることが裏付けられる。

 つまり、日本社会の持続可能性を真剣に考えるならば、高齢者偏重の社会保障給付を現役世帯へ振り替え、世代間格差を是正することで、現役世帯の社会を支える力を回復し、次世代への投資に回すことこそが求められている。

 「こども保険」は、こうした日本の喫緊の課題解決に資する施策の財源調達の手段の緊急避難的な苦肉の策として提案されていると解釈できる。

「こども保険」が目指すもの

 「こども保険」とは、子供が必要な保育や教育等を受けられない“リスク”を社会全体でカバーするために必要な財源を、既存の年金制度の中に組み入れることにより、社会保険として対応しようとするものである。

 提案では、「こども保険」の負担者は現役世帯と企業、受益者は乳幼児を持つ家庭とされ、二段階で施策が充実されていくこととされている。

 まず、第一段階では、厚生年金などの保険料率を、勤労者と企業労使折半でそれぞれ0.1%ずつ計0.2%、自営業者等が加入する国民年金の場合は月160円引き上げ、これを原資として3,400億円ほどの財源を調達し、就学前の乳幼児(約600万人)を抱える家庭に給付する児童手当の上乗せ額を月5,000円、年間6万円引き上げる。または、保育所等の拡充を行い待機児童の削減や、年収360万円以下世帯の保育料の実質無償化を実現する。第二段階では、医療介護の給付改革を徹底的に進めつつ、さらに勤労者、企業の保険料率を各々0.5%ずつ計1.0%、自営業者等の国民年金の場合には月830円引き上げることで、1.7兆円ほどの財源を調達でき、児童手当の上乗せ額を25,000円、年間30万円にまで引き上げることが可能となる。現在、幼稚園や保育園の利用者負担額は、平均で1~3万円程度(保育園の場合、認可・認可外、居住地域、所得水準により異なる)なので、児童手当の上乗せ額を25,000円にできれば、幼児教育と保育サービスの実質無料化が達成できる。

「こども保険」の5つの意義

 以下では、「こども保険」の意義について、取り上げる。

(1)強いメッセージの発信

 これまでも児童手当の増額や幼児教育の実質無償化、保育サービスの充実に関しては様々な提案がなされてきたものの、結局は財源の制約を口実に政策が小出しとなり劇的な効果を挙げられずに尻すぼみとなっていた。しかし、既存の社会保険に上乗せすることで財源確保を行う予定とされており、これまでのような財源確保がうまくいかず約束した施策が実行不可能となることは想定しにくい。その分、政府の少子化対策へのコミットの強さが明瞭となると同時に、政府の本気度がより強いメッセージとして国民に伝わることで、子育て世帯や出産適齢世帯が政府の施策を信頼し、安心して出産・育児を行える効果が期待できる。


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